図書館本4冊、1冊のぞいて全部アンリミ。今月はなんといってもラクダ。壮大な冒険譚に熱中いたしました。
文芸
「踏切の幽霊」高野和明
前作ジェノサイドの出版が2011年だって。0歳の子が高校受験するくらいの年月が経ての新刊。まずは高野さんのご帰還を喜びたい。
踏切に現れる女性の幽霊が生前、謎多き人物であったことを知った雑誌記者が、真実を追求していくオカルトミステリ。前作の出版から10年以上の歳月を経て、著者の中で変わられたこともたくさんあるのだろう。生と死について思いを巡らせる社会派の物語で、かつての作品にあったエンターテイメント性は控えめだった。
ページを繰る手が止まらない、ことはなかったが、無駄のない構成でじっくり読ませてくれる作品だった。舞台である1994年は、今より「故郷」の持つ意味が重かったように思う。幽霊はなぜ踏切を目指したのか、寂しい余韻の残る幽霊譚だった。
「黒牢城」米澤穂信
織田信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠った荒木村重。じりじりと包囲網が狭まる中、味方しかいないはずの城内で不審な事件が起き始める。士気の低下を恐れる村重は謎を解くため、かつては織田方の使者、今は土牢の住人となっている黒田官兵衛のもとへと足を運ぶ。
第166回直木賞受賞作。刻一刻と悪化していく戦況に呼応するかのごとく次々と起こる怪事件。これまでにない切り口のミステリで斬新さを感じたが、それ以上に歴史小説として読みごたえがあった。絶対的な上下関係や主君に対する忠義の心、武士の生きざまが鮮烈に描かれており、徹底された武士言葉にも時代に忠実であろうとする著者の心意気がうかがえる。思慮深い村重、ダークな黒田官兵衛も新鮮だった。官兵衛の策が成った結果が現代の村重像と考えると、ぞくぞくしてくる。
特に胸を打たれたのは郡十右衛門の献身。終盤、村重と城を脱出する場面で見せた葛藤と決断、一本筋の通ったブレない姿が男前すぎた。この年になるとこういうのに弱い。
難点としては、歴史に忠実であろうとするあまり細かな説明をところどころに入れすぎて、テンポが途切れがちなところ。1章ずつゆっくり読み進めることをおすすめしたい。
「世にも奇妙な君物語」朝井リョウ
現代社会への皮肉が込められた短編集。みんな仲良しのシェアハウス、SNS中心の交流、保護者優先の保育、要約ばかりのニュースサイト、どの話も意外なオチで締められていて、スッキリとした後味の悪さは、まさに世にも奇妙な物語。そして最終話、共通点のない短編たちをまとめる発想が、朝井リョウまじ天才。
最後まで読んだらまた1話から読み直したくなるし、共感はおもしろさの源だし、何より読みやすいは正義。これから読書にハマる予定の若者におすすめしたい作品。
「ヒトコブラクダ層ぜっと」万城目学
特殊な力を持った梵天、梵地、梵人三兄弟が、宝石泥棒から自衛隊に入隊、イラクに派遣されたと思ったら拉致されて古代メソポタミアの謎に迫り、ゾンビと闘う。
つまりいつもの奇天烈な物語が万城目至上最大ボリュームで展開されているのだが、めっちゃくちゃ面白くてこの長さが逆にありがてえ。三兄弟のノリが仲間同士に近いから、男子校の雰囲気があって楽しいの。
馴染みのない古代メソポタミアにまつわるジッグラトや青ちくわ(円筒印章)をネット検索しながら、一気に駆け抜け読了。終盤にある設定解説は少々冗長気味ながら、三兄弟の冒険がまだまだ続くことを予感させるエンディングで、読み終わってからも想像が膨らみワクワクが止まらない。上下合わせて1100ページ強、一回も読み飽きるタイミングがなかった、マジで。やっぱり万城目さんは稀代のエンターテイナーだ。
「炎の塔」五十嵐貴久
地上100階建てのランドマーク「ファルコンタワー」で発生した火災の消火活動に全力を尽くす消防士たちのドラマ。
火災が発生してから刻一刻と悪化していく状況の中、緊迫感は最後まで途切れず息つく暇もないとはこのこと。鎮火をしながら人命救助にあたるのだが、とにかくバイアスに囚われている人を説得する大変さといったらもう! 真っ先に責任の所在を考えてしまうのはもはやサラリーマンの病気なのかも。
私たちの暮らしの安全を守ってくれている消防士さんたちのご苦労、ご尽力にあらためて感謝を申しあげたくなる作品。火事は怖いよ。
「大事なことほど小声でささやく」森沢明夫
悩み多き大人の駆け込み寺「スナックひばり」に集まる面々の悲喜こもごもを描いた連作の群像劇。
家族のこと、会社のこと、口には出せないけれども様々な心配事や不安で心が弱っているとき、寄り添って受け入れてもらえるだけで救われることってままある。そんな物語の数々で押しつけがましさは一切なく、じーんと胸が熱くなる。
ふと、「雨のち晴れ、今日は雨ふりでも、いつの日にか」というミスチルの歌を思い出した。やまない雨はないってね。無条件に応援してくれる仲間と分かち合っているからこそ、虹は格別に美しいのだろう。
本書はやさしさだけで作られているので、老若男女誰が読んでも大丈夫。ただ、現実と比べるとまぶしすぎて、私は心が万全なときに読んでよかったかナー。
「虚夢」薬丸岳
被害者と加害者、両方を俯瞰し問題提起する物語を多く書いている薬丸さんであるが、今作のテーマは責任能力のない加害者。刑法39条により事件をなかったことにされた被害者の苦悩や、統合失調の影響がもたらす人格変化の恐ろしさが克明に描かれていた。
刑法が犯罪者を守るものだとするなら、被害者は何によって守られればよいのか。法の不整備を指摘し、誤解を恐れず完治のない病である以上再犯の可能性がある、とまで示したところには作家としての気概を感じたが、加害者も、加害者家族も被害者というのは、右の頬を打たれた当事者に左の頬まで差し出せといっているようなもの。ほんと、難しいテーマである。
「球体の蛇」道尾秀介
幼児期に幼馴染の死を経験し、家族からは愛されず、年上女性への憧れをこじらせたあげく奇行に走った少年が、世話になったおじさんとも決別する。
つまり何が言いたいのかよくわからない小説だった。見たことをありのまま書くなら、暗い素養を持つ少年がちょっと歪んだ大人への通過儀礼を経て、清濁飲み込んで前向きに生きていく話。最後まで主人公に関心が持てないことに加え、二転、三転する事実も(あえてなのかもしれないが)焦点が定まっておらず、青春小説としてもミステリとしても中途半端な印象。いまいち世界に入っていけなくて残念。ともあれ、乙太郎さんはきちんとしていないけれど立派な大人だったと思う。
「傷だらけのカミーユ」ピエール・ルメートル
絶対に1作目を先に読んでおくべき3作目。
宝石強盗に恋人が巻き込まれ前後不覚に陥り、いつも以上に独断で捜査を進めていくわれらがカミーユ。恋は盲目というが、彼が異常なまでに愛に固執するのは生い立ちが関係しているのだろうか。
ミステリとしては誰が読んでも面白いと言わせる作り込み。だがカミーユにスポットが当たり続ける分、犯人との駆け引きといった刑事小説の醍醐味は感じにくかった。それでも単純と思われていた事件が過去の事件とつながり、予想外の結末へと向かっていく展開には読む手を止めさせない力がある。
残念ながら、今作でカミーユシリーズは完結。著者さん、気が変わってもし続きを出すようなことがあっても、あまりカミーユをイジメんといてください。
「破果」ク・ビョンモ
65歳の女アサシンが主人公と聞いてアクション中心なのかと思っていたが、語られていたのは一人の女性の生きざまだった。
老齢期に差し掛かり、引退勧告を受けている女暗殺者・爪角。孤独を選び、女性としての喜びを諦め、老いを実感しながらも強くあろうともがき続ける。
儒教的思想の影響が強い韓国の社会事情が描かれているとおりだとしたら、年老いた女性は相当生きづらいに違いない。だからこそ爪角のようなあらがうヒロインが生まれたのだろう。
意図したものらしいが、文章に若干の読みづらさがあり読書ドライブはなかなか加速しづらい。その要因と思われるところは蛇足と言ってもいいので、同じように感じて挫折しそうな方は飛ばし読みしても問題ないと思われる。
「カクテル、ラブ、ゾンビ」チョ・イェウン
韓国女性作家によるホラーテイストの短編集。
なぜテイストかといえば、まったく怖くないから。著者さん自身も書きたいものを書いたらホラーだったとおっしゃられているので、家父長制といった自国の社会問題をあらわにする手段としてのホラーと捉えたほうがよさそう。
抑圧された女性の開放を描く「インビテーション」、シスターフッドの趣もある幻想譚「湿地の愛」、伊藤潤二やうぐいす祥子、阿部洋一あたりの世界観にも通じる「カクテル、ラブ、ゾンビ」、構成、物語、どれをとっても頭一つ抜けた完成度のサスペンス「オーバーラップナイフ、ナイフ」。ゾンビと日常生活を送るために奮闘する家族を描いた表題作には笑わせてもらった。ホラーを読むほどにわかってくる、恐怖と笑いは紙一重ってね。
作品とは関係ないところで、序章から伝わってくる著者さんの物語への愛が素敵。応援したい作家さんが増えました。
「いずれすべては海の中に」サラ・ピンスカー
出版区で池澤春菜さんが激烈おすすめされていた作品が運よくサブスク対象になっていた。だからアンリミお得なんだって。
まず、装丁の美しさに目を奪われる。作品のまとう空気感をまさに表していて、本当に素敵。
短編と中編あわせて13作収録。読み始めはとっつきにくさを感じたが、何本か読み進めるうち著者の奇想に慣れ(?)たのか、すっと世界に入り込めるようになっていった。どの物語にも現実感があるのに、幻想的で静謐、行間から漂う物悲しさで、読後はしんみり。うーん不思議、著者の目に世界はどのように映っているのだろう。このようなSFに触れる機会はこれまでなかったので、新しい扉が開いた感じ。「オクラホマと呼ばれる場所にいる気分を曲から教えてもらった」という音楽家ならではの表現が心に残る。
マンガ
これ以上面白くしてどうするんだ「彼岸島」
さて、卑弥呼さまの腹を借りて爆誕した篤。まさか吸血鬼にオムツを変えられるという恥辱を与えられるとは、当の篤も想像していなかったことだろう。
卑弥呼様とプリンセス様に見守られる中、オギャる篤。厳しい生存競争に打ち勝つためアマルガムとなった自分が、まさか母親の喜びを知ることができるなんて。母になった喜びをかみしめる卑弥呼様であったが、ここで彼女のおっぱいからは母乳が出ないという衝撃の事実が明かされる。やたらたくさんついているおっぱいは遊び用だったようで、プリンセス様からも数だけはあるのにね、と痛い指摘を受けている。でも大丈夫、母乳が出る女くらい一人や二人や三人常備しているから。競うように母乳を与えられ、利き母乳のスキルを獲得する篤。女たちは一致団結で子育てに励んでいた。
このあたりの事情を深読みすると、卑弥呼様が胎児を宿した経緯もそうであったように、外に出ていった際、運悪く男吸血鬼に捕まり乱暴を受けた結果、妊娠してしまった(=母乳が出る)のだと思われる。男を信じられなくなった彼女たちが、純真無垢な篤に夢中になるのも当然だ。その割に子どもがいないのは、人間と吸血鬼とでは体の事情が異なることも関係していそう。
転生と同時に、女たちの悲しみを一身に受け止めることを宿命づけられた篤。同じ属性として竹馬街の白髪族を統治していた太陽様がいたけれども、女性の年齢や容姿、性格問わず受け入れていたし、男たちの欲望解消すらも兼ねている理想的なコミュニティを築いていたよね。終末世界のダイバーシティはハーレムなのだ。今モテないと嘆いている諸兄はぜひ彼岸島で予習を行い、来るべき日に備えてほしい。
さて、そんな平和な日々を過ごすうち、篤に不穏な兆候があらわれ始める。反対を押し切ってまで丸い形のメガネをつけたりパーカーの上着を欲しがったり、あげく危険な門の外を出歩くことが頻繁に増えていき、不審に思う卑弥呼様。
そして、その日は突然訪れた。
雅を呪う過去の記憶と吸血鬼の女たちに愛され育った現在の記憶、両方を否定することなく受け入れ、篤は旅立ちを決意する。もうさー、熱すぎない? 弟が必死ですがった母さんの思い出ゼロですよ。病み上がりの身体をおしてまで駆けつけた明さんの心中察するにあまりある。
話をすべて聞いた一行は新たな地へと旅立つ。プリンセス様から協力の確約を得て、士気も一段と上がったようだ。これまで憎み合っていた強敵たちが味方になるという少年漫画的なワクワク感を彼岸島で体感できる日がくるなんて、いや、その実待っていましたよ。明が一瞬夢想した連合軍vs雅のページが実現するまで絶対あの世に行けない。
ケンコバの漫画愛は本物
最近、幼児期のギフテッドについて専門に研究されている先生の講演を聞き、界隈にランク付けがあることを知った。
マイルドリー(IQ115-129)モデレイトリー(130-144)ハイリー(IQ145-159)エクセブショナリー(IQ160-179)プロファウンドリー(IQ180+)
メディアで天才児が話題となることもあるが、9割以上はそうではないというのが実際のところらしい。
割合としてマイルドリーは6人~40人に1人、つまりクラスに一人はギフテッドがいる計算。芸人さんの頭の回転のよさを見ていれば、マイルドリーあたりに属している方が相当数おられることは当たり前に連想できる。
前置きが長くなったが、youtubeのヤンマガ月刊新人賞選考におけるケンコバの洞察力・瞬発的な分析力が的確すぎて、芸人やめたら編集者として第二の人生始められるんじゃないかって話。
youtu.be
「戦士に愛を」待ちきれず購入
単行本になるまで待とうと思い、待って待って幾年月。もういいよね? セールになっていた34巻まで買っちゃった。
あらためて読み直しても、やっぱり熱い。きれいな絵とデジタル効果を駆使した派手な漫画もいいけど、ラフなタッチだからこそ戦場の乾いた空気や戦闘の緊迫感が真に迫ってくることもあると思うんよ。
近未来を舞台に、人間の代わりに戦う人造人間達の物語。
先の大戦で世界は夥しく汚染された。その大地を浄化し街を再構築した人造人間達。大きな社会貢献を果たしながらも、彼らは人間達から差別と迫害を受け続ける。
機構政府に盲従し酷使されてきた人造人間達の中には、自由と「肉体の再活性化」を求め反抗を露わに行動する者が現れてきた。
そんな中、一人の人造人ウィズは、見えない前途から抜け出すため、機構政府軍に志願する。対立する連合軍との争いは激化していく。(amazonから引用)
アンリミに入っていて未読の方はぜひ読んでもらいたい。もちろん、そうでない方も。
BLは3冊購入
・最終電車の恋人たち/ダヨオ
アラフォーサラリーマンの純な恋バナ。「自分を最後の恋人にしてほしい」、年を重ねるほど切実になるその思い、わかるわよ~。恋に臆病な大人たちの大胆になりきれない姿がリアルに描かれていて、共感できる場面が多かったです。スケベなBLが苦手な人におすすめ。
・前略、お兄ちゃんは聖女になりました。2巻/由依子
テオが自分の気持ちに正直になり、二人の関係が好ましい方向に一歩、いや100歩ほど前進。
・ホワイトナイトビターポルノ/野花さおり
年下ワンコ×誰も好きにならない美人、つまり好きが確約されていたわけでして。つか表紙だけで1000パターンくらい妄想してしもて満足している自分も正直いる。
ワンコ攻めのいいところが全部詰まっていました。好きになっちゃいけないのに心引かれるのを止められない? それでいいのですよ、それで。ところどころの修正甘めが嬉しい。
その他
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発想といいスケールといい、宝石の国以外ないと確信していたよ。
せっかくなので図書館で借りるまでに1年以上かかりそうな本を買おうと思います。