ひさびさにゲームで遊んだら思いのほかはまってしまって、本を読む時間が少なくなりました。
文芸
「極楽に至る忌門」芦花公園
四国の山奥にある城川村には、昔から大切に祀られている石仏がある。東京から帰省した友人に付き添う隼人は、バスの中から村の異様な空気を感じていた。祖母の「頷き仏を近づけた」という言葉を聞くやいなや挙動不審になった友人は、その夜失踪する。そして隼人は悪夢に囚われていく――連綿と伝わる儀式とわらべ歌、3つの捧げ物、猿神信仰。最強の拝み屋・物部斉清も阻止できなかった土地の因縁と禍々しい怪異に戦慄する物語。(カドブン作品紹介より)

とことん怖がらせながらも物悲しい余韻を残す、正統派のジャパニーズホラー。排他的な村落の土着信仰にキリスト教的概念「天国へ至る門」を取り入れる和洋折衷が、いかにも著者らしい。
収録は全4編で、理不尽な1話目から始まり、悲しみの2話目、絶望の3話目と続く。ここまで怪異の正体は不明のままだが、いつもの作品よりは親切で、最終話は著者作品おなじみのイケメン霊能者・物部さんによる一連の出来事の解説パートとなっている。いつぞやツイで「こわい」は「知らない」と「わからない」でできている説と言っておられる方がいたが、芦花公園さんはこの「わからない」を軸とした展開がとても巧みな方であると毎度感じる。曖昧な情報に想像力をかきたてられて、まあ怖いこと怖いこと。
ただ、本作がすごいのは怖いで終わるのではなく、最終話で人間の業と信仰の変化について思いを巡らせる物語に変化するところ。昭和、平成、令和と時代が進むにつれ、怪異現象がより凶悪に、より狡猾に進化していく様も見どころ。著者の作品を読むのは3冊目であるが、今作がいちばん好きかもしれない。物部さんを知らない方は「ほねがらみ」「異端の祝祭」もぜひ。
「おんびんたれの禍夢」岩井志麻子
時は明治。岡山から上京した若き小説家・光金晴之介は、自称「世界探検家」の豪傑・春日野力人から冒険記のゴーストライターを頼まれる。馬来、上海、緬甸、印度――亜細亜中から舞い込む体験談は憎しみと叫び、不可思議な謎に満ち、晴之介は美しい同居人・楠子 と共に複雑怪奇な事件と対峙していく。故郷の忌まわしき「キバコ」の記憶、海を越え日常を浸食する異界の住民。そして直面する戦慄の真実とは? 驚愕のホラーミステリ。(カドスト作品紹介より)

岡本東子さんの美しい表紙が目を引く、大好きな志麻子さんの作品。
冒険家から送られてくる紀行を清書するたび頭をよぎる、幼少期の記憶にある謎の女性「みっちゃん」への思慕。夢と現実を行きつ戻りつする物語で、明治、岡山、貧乏(は今作にはないが、主人公は田舎出身)を調和させ、怪奇に仕立てる著者の世界が円熟の域に達したことを感じる物語だった。怪奇ホラー、もしくは全ての謎が最終話でとけるからミステリと言えばそうなのかな?
作中作として語られていく蠱惑的なエピソードには、結合双生児やカザフスタンの美形殺人鬼といった印象的な人々が登場する。異国を舞台とした幻想譚にももちろん酔いしれたが、すごく好きなのはナチュラルボーンだめんず・晴之介が惚れ抜いている半陰陽の美女・楠子への恋情をネチネチ語るところ。心持ちだけで言えば晴乃介はヒモの理想形。一日中自分の好きなことだけをして生きているヒモって、もはや愛玩動物だ。
「コンビニ人間」村田 沙耶香
「高望みはしていません、普通の人でいいんです」。世間が言う普通の基準って何? そういう話。

第155回芥川賞受賞作。古倉恵子36歳、未婚、彼氏なし。19歳から始めたコンビニのバイト歴は18年目になろうとしていた。毎日変わらないコンビニ中心の生活を続ける彼女であったが、ある日バイトで入社してきた男性・白羽との出会いから、少しづつ変化が起き始める。
読むのが遅すぎたかも。本書が発刊されたのが2018年。多様性への寛容と他者への興味関心が薄れてきている2025年のいま読むと、物語で描かれている普通の価値観に少し古さを感じてしまう。私の周囲もそうなのだが、どちらかというとコンビニ人間側というか、世の中の多数決に傾倒できない人が増えてきているんじゃないかなあ。
社会というムラで生きていくため、世の中が言うところの「普通」に擬態する恵子。そうなろうと思ったきっかけは家族に迷惑を掛けないためであって、自分は今のままで何ら不自由していない。なんで結婚しないの? 早く子ども生まないと後悔するよ? その年になってアルバイトっておかしくない? ステレオタイプな価値観を押し付けられても、その都度恵子は冷静に分析をし、相手が喜びそうな答えを導き出していく。
周囲の雑音がうるさすぎて生きづらさを抱えている人は、感情が欠落している彼女の独特の捉え方が参考になるのではないかな、と思う。露骨に嫌な顔をしてもしつこく言ってくる人には、この本を差し出して読書感想を求めればいい。私が言いたいのは、今どこを見てもボトムスのウエストがゴム入りだってこと。社会全体がさ、無理するのをやめようと言っている時代なんだよ、もう。もちろん必要があるときは頑張らないといけないけど、どこまでするかは自分自身が決めることさね。
ということで、意外や救いの物語であった。中編で読みやすいし、精神的負荷が高いように見えても淡々としているから暗い気分になることもない。誇りと責任を持って働くことの大切さを感じるられるお仕事小説としても秀逸。コンビニ店員としてプロ魂を爆発させるクライマックスは激アツだ。
「ババヤガの夜」王谷晶
表紙はラクガキングこと寺田克也さん。河出が本気で売りにきています。

身長170cm、体重75kgと恵まれた体格を持つ新道依子は、喧嘩の腕を見込まれ暴力団の娘・内樹尚子のボディガードとして働くことになった。誰もが距離を置きたがる中、対等に接してくる依子に尚子は心を開いていくが、ある日の出来事を境に安寧の日常は崩れ去っていく。
英国推理作家協会(CWA)主催の翻訳ミステリー賞「インターナショナル・ダガー賞」にノミネートされたと聞いて図書館で借りてきた作品。中盤までは筋骨隆々の女性が男社会の縮図である暴力団内部で立ち回るバイオレンスアクション。以降は依子と尚子が過ごした40年が回想されていく。物語に仕掛けられた謎のキモとなる部分には少々無理も感じたが、尚子の選択の理由は納得できる。フェミだから、というわけではないと信じたいが、登場する男性はおおむねクズか変態。マトモな思考ができる人間は1人しかいない。
私といえば、読後数日たっても二人が過ごした40年に思いをはせてしまうくらいには余韻が消えない状態にある。芯からの強さと慈しみの心が同居するメスゴリラ依子というキャラが市民権を得たことには、新しい時代の息吹を感じるね。
女性による、女性のための物語。なるほど海外受けがよさそうな物語であった。男性が読んでおもしろいかは、うーん? 依子のイメージが浮かべづらい人は、漫画「狂狼は繭を喰む」の一読をおすすめしたい。
「骨を喰む真珠」北沢陶
時は大正、新聞記者に勤務する新波苑子は、社に送られたきた不穏な投稿に誘われ製薬会社を経営する貴族の家に潜入した。歪な家族関係と夢のような効能をもたらす丸薬、二つの謎を調査するうち、自身もまた禍いに飲み込まれていく。

序盤はゴシックホラー、主人公が交替する中盤からキャラクター性を強調した漫画的な流れとなり異能力で無双するという、終わってみればエンターテイメント性の高い作品であった。
和洋の人魚伝説を折衷する切り口が斬新で面白い。前半の心理的圧迫を後半で開放する対照的な展開やミステリ調の物語はこびでページを繰る手を止めさせないが、キャラ文芸を受け入れられるかどうかで印象は変わりそう。ちまたのレビューを見るとグロテスクなシーンの描写がエグかったとか言われているけれど、私は割と控えめに感じたカナー。白潟の同胞が礼以に従う理由の回収がされないところは消化不良だった。
「火喰い鳥を、喰う」とか「けがれた聖地巡礼について」とか最近角川ホラーの漫画化がさかんに行われているし、そのうちこの作品もされるかもね。
「駿河城御前試合」南条範夫

「シグルイ」の原作。最初はよかったが読み進めるうちマンネリパターンになってきて・・・挫折!
また読むときのために対決カードのメモ
無明逆流れ 伊良子vs藤木
被虐の受太刀 どM性癖を嘆く座波間左衛門
峰打ち不殺 殺意に対し反射的に体が動き、相手を死に至らしめてしまう月岡雪之介
一つ勉強になったのは、鎌倉・室町時代と比べ江戸時代につくられた刀のほうが折れやすいこと。実戦ではなく鑑賞としての価値に重きを置かれるようになった結果の弊害なのかなと。
「白猫、黒犬」ケリー・リンク
本棚にこの本があったらオシャレだよね。装画はヒグチユウコさん。

童話・民話からインスピレーションを得て形作られた幻想的な物語の数々。巻末には元となる物語の簡単なあらすじが紹介されていたが、照らし合わせてもどこがどうしてこうなった? と疑問符が浮かぶばかりなので、むしろ知らないほうが楽しめる。
世界観はダークメルヘン。奇妙で怖くて、でもどこかおかしくて可愛らしさもあって、ホラー・オカルト・サブカル界隈を周回している人間のハートを打ち抜いてくる。もう君が好きだと叫びたくて仕方がないのだが、開幕の「白猫の離婚」から閉幕の「スキンダーのヴェール」まで、登場人物たちと不思議の世界を旅する素敵な読書体験をさせてもらった。「粉砕と回復のゲーム」だけは翻訳ものにある難解さでつまづいてしまい、要旨は理解したものの脳内映像のピントがいまいち合わなくて無念。映像化するならティム・バートンで。
「ヤンキーと地元」打越正行
打越先生が亡くなられていたのは存じ上げなかった。

参与観察とは研究対象となる社会に数か月から数年に渡って滞在し、その社会のメンバーの一員として生活しながら対象社会を直接観察し、その社会生活についての聞き取りなどを行うこと。その手法を用いて沖縄のヤンキーが地元とどのように関わり生きているのか、2007年から10年以上にわたりパシリとして彼らに密着し、調査を続けた記録である。
私の中で沖縄と言えばアムロちゃん、DA PUMP、米軍基地といった日本でありながら米国というイメージが強かったが、平成19年当時、内地では絶滅寸前のヤンキーが一大コミュニティを形成している事実が、まず意外であった。そこには先輩後輩という絶対的な上下関係が存在し、低学歴、搾取、暴力を当然のごとく受け入れる土壌が整っていた。
憧れや家庭環境といった要因により不良化することが多かった内地と、ヤンキーになることが成長過程の自然な流れとして存在している沖縄。ヤンキーの実態には目新しさを感じなかったが(ビーバップ、ホットロード世代なもので)、環境が生活、果ては生き方にどのような影響を及ぼしているのか、彼らと地元の結びつきを明確にした貴重な文化史であることに違いはない。
「傭兵の誇り」高部正樹
著者の経歴がすごい。80年代後半にアフガニスタンに渡り、ソ連共産軍と戦闘。その後ムジャヒディン(イスラム戦士)に加わりソ連撤退後の内戦を闘う。90年からカレン民族解放軍でビルマからの独立運動に参加。94年ころクロアチア軍「ビッグ・エレファント」に所属しボスニア紛争に参戦。

自身の傭兵経験のまとめともいうべきエッセイ。第一章では傭兵の実態と著者が傭兵になった経緯、第二章、第三章は戦場の体験談、第四章、第五章は主に著者の思想が語られている。
傭兵に対する印象の多くが変わった。命をかけて戦うのだからさぞ高給取りなのだろうと思っていたが、実際は薄給またはゼロらしい。それでも彼らが傭兵として戦場に身を投じる理由は読んでいるうちに理解できた・・・気がする。戦うことでしか生きている実感を得られない人たちもいるということだ。
自身もそのことを自覚しているのに何かと愚痴っぽいところには矛盾を感じたが、安全圏から知った口を聞く著名人に我慢がならないところには共感する人も多いだろう。この先世界がどうなっていくのか見通しはたたないが、日本はこのまま百戦錬磨の傭兵たちに頼る事態にならないよう歩んでもらいたい。
マンガ
続巻と新刊
・綺麗な君に殺されたい。 1巻

芦花公園さん原作のサスペンス・ホラー。謎めいた展開とキリスト教的な悪魔の存在、そして、うすうす気づいていましたが芦花先生イケメンがお好きですね? 被虐指向を持つカウンセラー・智明と、人殺しすらいとわないほどの嗜虐嗜好をもつ謎の美青年・一(はじめ)。二人がどのような道をたどろうとも、ハッピーエンドでないことだけは約束されています。もともと作風を知っている私は楽しめましたが、そうでない方だと1巻を読んだだけでは興味を引かれないかも。
・じゃあ、あんたが作ってみろよ 3巻

男らしさ、女らしさとは違う、自分らしさとはどういうことなのか。女性が料理をするのが当たり前と言いきる友人、一歩も動かず母に命令するだけの父親、今までの当たり前を客観的に見て自問自答を繰り返し、勝男は価値観を上書きし続けます。まあでも、みんながみんな勝男みたいに素直に変われるわけもないですし、大事なのは相手に対して思いやりを持てるかどうかなのではないでしょうか。鮎美サイドにも大きな動きがありましたが、鮎美のキャラ設定がいまいち弱くて勝男ほど行く末が気にならないという。
・君と宇宙を歩くために 4巻

4巻もすがすがしい気持ちになる話ばかりでした。メインは体育祭。もう準備の段階からドタバタです。お互いを認め合い、クラスメイトも巻き込んで成功を共に分かち合います。みんな青春を謳歌していていいね。そして、小林くんのヤンキー仲間(名前わからない)も二人とは違う何かを抱えているようです。これまでも少し見え隠れしていましたが、予想としてはギフテッド。生きづらいという共通点はありますよね。
・ダイヤモンドの功罪 8巻

こちらのギフテッド児・綾瀬川は、ついに壊れました。自分が負けてしまったら今まで自分に負けた人たちはどうなるのか、周囲に気を使いすぎるあまり良くない方向に振り切ってしまった綾。久しぶりの新刊に喜びながらも複雑な心境です。綾が闇落ちしていく姿は見ていて辛い。
・合コンに行ったら女がいなかった話 9巻

蘇芳さんカップルに少しだけ進展あり。両片想いのモダモダも9巻までくるとちょっと食傷気味。そろそろ琥珀ちゃんたちあたり卒業してもいいのではないでしょうか。
・ファミレス行こ。 上巻

上京したあとも聡実くんと狂児の距離感は相変わらずでしたが、収録最終話で静かに取り乱しました。もう会わないほうがお互いのためと言う聡実くんの提案を、冷静に受け入れる狂児。そして、聡実くんが自分の気持ちを確かめるために示した行動・・・ッッッ!! この世に生を受けてから「大人の対応」ってやつをこんなにも憎んだことはありません。和山先生は、いずれにしろ聡実くんが幸せになるよう考えておられるようです。それが私の幸せにつながるとは限らないところが怖い。
今月もBLをたくさん買ってしまった。きっと疲れているんだ
続巻が多かったので、厳選して感想を。
もう少しだけ、そばにいて(クロフネコミックス)
BLにくくって読者を限定してしまうのは、もったいない気がする

事故で下半身不随になってしまった晴斗と、彼を献身的に支える恋人の晃。二人の姿を通して、障がい者と健常者が共に歩むとはどういうことなのか学べたような気がします。気づきを与えてくれる先輩の存在もよかったです。純愛と言えばそうなのかもしれないけれど、言葉で表せないようなもっと深い結びつきを感じました。
・緑の風に君をひらく(ビーボーイコミックスDX)
こういうのでいいんだよ

小説家と、彼の庭を剪定に来た庭師が心を通わせていく物語。古民家と庭を中心としたとても狭い世界で展開していきますが、その分二人の気持ちの動きが丁寧に描かれていて、上質な映画を観たような充足感に満たされました。そして、お母さま方もご安心ください、性的な描写はキス1回だけです。穏やかな、心地のいい凪いだ風を感じる作品です。木漏れ日の差す自然豊かな庭の描写も詩情にあふれており素敵でした。
・営業ですから 1巻(花丸コミックス)
良くも悪くも少女漫画のノウハウが詰まったBL

偽装カップルもの。作者のミユキ蜜蜂さんは少女漫画界のベテランだそうで、そう聞けば受けが女の腐ったミカンみたいなムーブかましてくるのもなるほどな、と。物語は私の好みには合いませんでしたが、モノローグの使い方はさすがのうまさでした。心理描写に違和感がなくて読みやすかったです。
・またね、神様 上下(花丸コミックス)
ひどいこと、してほしい(ただしBLに限る)

新興宗教の救い主として日々蹂躙され続ける美しき少年と、彼を歪んだ愛で囲い込もうとする思春期男子。ダークサイドに落ちたあなたであれば、もはや多くを語る必要はないでしょう。手に取りなさい、そして読みなさい。
・ストスト~ストーカーがストーカーされてる話~ 1巻(ガンガンコミックスpixiv)
ストーカー大歓迎(ただしBLに限る)

AがBを好きで、BがCを好きで、CがAを好きという三すくみの歪んだキャンパスライフ。嫉妬、執着、すれ違い、ヤキモチ、ツンデレ、見守り、餌付け・・・おまわりさん、性癖のデパートはこちらです。1巻は性描写ありませんでしたが、ガンガンだし今後も控えめと予想。ま、自分オカズなくてもニオイだけで全然メシ食えるんで。
・魔女の犬(分冊版)7巻(&.Emo comics)
待てができなくてごめんなさい

一線を越えても距離感は相変わらず。彼らの関係を表す言葉がみつかりませんが、あえて言うなら戦友でしょうか。傭兵経験者いわく、戦場での結びつきは家族や恋人よりも強固なのだそうですニッコリ。お前の最後は俺が見届けてやる、と男冥利につきる言葉を掛け合い、つかの間の休息を過ごした二人。次は夏美の過去が明かされるようです。彼の体格のよさの理由もわかりました。