Cult of the Lamb(カルトオブザラム)日記4のつづき
※カルトオブザラムのゲーム日記、だったのですがゲーム内容を基にした二次創作の小説風にしてしまいました。※ネタバレにも触れています。
※設定を想像で補完しているところがあります。
※主人公の性格設定は見た目は子ども、中身はジジイです。
変革の風
グレユルトレの兄弟を探すため、再び夜闇の森の奥深くを目指す。
独裁者が去った今、平穏が訪れているといいのだが、そう願いながら領域を隔てる門をくぐり足を踏み入れた。
それと同時、レーシィを象った彫像の陰に誰かの気配を感じ、とっさに身構える。
姿を現したのは――フクロウのハロだった。

彼とは、領域に初めて足を踏み入れたときから何度か顔を合わせている。
無知な子羊を不憫に思ってかはわからないが、いつも旧き信仰の司教たちのことや、この世界の成り立ちに関わることを気まぐれに語り、そして気まぐれに立ち去っていく不思議な存在だ。
鳥型ではあるが、クダーイたちとは別種のように見える。
頭上には神の証である王冠。
ただし、その目は固く閉じられたまま開く気配はない。
かつて、ハロから聞いた話はこうだ。
遥か昔のこと、この地には多くの神々が存在し、それぞれの神は多くの信者を抱えていた。
この万神殿に何が起きたのか?
嗚呼、悲しきかな。
忘れることが獣の性であり、忘れ去られることが神々の性である。
神々は去ったのかもしれぬし、眠りについたのかもしれぬ。
お互いを食らい合ったのかもしれぬ。
残った数少ない神々は、根を伸ばし、巣を紡ぎ、世界を自らに合うように作り替えた。
かつてここは多くの神々が、何百という神々が住まう地だったのだ。
だがそれも今や・・・。
忘れることが獣の性、ハロ自身、何があったのかを忘れているということだろうか。
今のところ、傍観者として事の成り行きを見守っているようだが。
いずれ詳しいことを知るときも来ようが、今はまず家族の捜索だ。
ホウ、ホウ、フクロウは語る。
「変革を告げる風が吹いている・・・汝も感じぬか?
世界が軋み、変化し始めている。
これまで、世界は不変であった。
何百年と動きのない世界には錆が生まれていた。
しかしレーシィが死したことで、この地の住民たちは己が強さを見せつけるための新たな戦いを始めるだろう」
以前のように簡単には倒せぬということだ、そう言い残し、彼は好き勝手に伸びた枝を器用にすり抜け、空高く飛び去っていった。
アガレスの魔眼
ハロの忠告が正しかったことは、すぐに身をもって思い知らされた。
敵の耐久力は、期間中の成長とは思えぬほど異常な高まりを見せ、 たった一体を倒すにも何度も何度も刃を振るわねばならなくなっていた。
戦闘が長引けば、こちらの被害も当然大きくなる。
まだ森に入ったばかりだというのに、すでに傷だらけだ。
だが、安請け合いしてしまったことを後悔しても、もう遅い。
少しでも弱さを見せれば、信徒たちはすぐに親指を下げブーイングしてくる。
まったく、この血の気の多さは誰に似たのやら。
行方不明となっていた兄弟は、すぐに見つかった。
レーシィの残党に囚われ、贄にされる寸前だったが、間一髪で救出に成功した。
あと少し遅れていれば、手遅れだっただろう。
長居は無用と判断し、偏在の力を使って帰還しようとしたその時、無人のはずの神殿から不気味な気配が漂ってきた。
レーシィとは異なる、禍々しくも異質な気配。
彼がいたときには感じたことのない気配。
もしや、神である彼の存在が、この地に潜んでいた別の何かを抑え込んでいた——?
支配者が消えた騒ぎで、それが目を覚ましたのかもしれない。
一刻も早く戻りたいところだが、放置すれば新たな災厄を招く可能性もある。
魔方陣に入りかけていた足を引き出し神殿へ駆け込むと、それは隠れることなくそこにいた。
身体と同じ大きさの眼球と四本の角、体中に呪言を書き込まれた巨大な異形が、ゆらゆらと揺れながら狭い神殿の中をゆっくりと漂っている。

我の姿を認めるなり、異形は襲いかかってきた。
身体を数回弾ませ、猛然と突っ込んでくる。
体重を乗せた突進の威力はすさまじく、一回当たっただけで大きく体力を削られてしまう。
だが、直線の動きが多い攻撃は、軌道を見極めさえすればかわすことは難しくない。
これならば、疲弊した身でも勝機はある。
軌道を見極めながら慎重に攻撃を加え、怒りを鎮めていく。
戦いの果て、魔物の殻を脱ぎ捨て現れたのは、怯えきった一人の民だった。
なぜ魔物化していたのか、詳しいことは覚えていない様子であったが、そばに落ちている目玉のような物体が関係していることは確かだ。
おそるおそる目玉に触れる。
邪悪な波動は感じるが、魔力はほとんど放出されているようだ。
「この呪物に憑かれていたときのことも、覚えていないのか?」
「自分のことなのに、本当に申し訳ありません。ただ、この目玉が『アガレスの魔眼』であることだけは、なぜか分かるのです」
乗っ取られていた者は、自分がどこから来たのか、本来の名すら思い出せないと言い、ただうろたえている。
「これから私は、どこへ行けばいいのでしょうか」
不安げな顔でそう問われた。
この森の危険性を考えれば、記憶がない者を放置しておくわけにもいくまい。
わが教団の話をし、入信を促したところ、ぜひ行きたいと言うので連れ帰ることにした。
密商者のプリンボ
偶然、手に入れた奇妙な魔眼。
この存在についてネズムは当然知らなかったし、長らく迷宮を住処としているクダーイたちに尋ねても答えは返ってこなかった。
とはいえ、長く教団に据え置いて誰かが憑かれたなどとなったら目も当てられぬ。
考えあぐねた末、どうせ手放すのであれば金に換えたほうがいいと判断し、先日森で出会ったプリンボという商人に話を持ち掛けることにした。
グレユルトレの兄弟とアガレスの教化を済ませ港へ向かうと、プリンボは我の姿を見るなり悪態をついた。

「お前は! おい、このラム肉――お前のせいで商売あがったりだ!
司教どもは確かに最悪だったが、やつらのおかげで水路の安全は保たれ、交易が捗っていたんだ。
それがどうだ、お前がやつらを殺したせいで、あらゆるバケモンが入り込み、うちの在庫を沈没させ始めた!」
やはり、長き統治の末、旧き信仰の司教たちは力の均衡を保つ存在となっていたらしい。
「ああ、いや、我にも事情があってだな」
「しかもだ、やつらは鋭い牙のついた、血すらも凍っちまうくらい恐ろしい見た目をしてやがる! うちのお義母さんみたいにな! アッハッハ」
お義母さん・・・冗談を言う元気があるうちは、まだまだ大丈夫な気もするが。
「だからお前にはこの状況を改善してもらう!
司教が死ぬたび、その場に魔眼と呼ばれるバケモンが現れる。
運がいいことに、抜け落ちた魔眼をたか~く買い取ってくれる客をプリンボは知ってるんだ。
つまりお前のやることは単純だ。
司教を殺した場所に戻り、そこに現れたバケモンを倒して、そいつの眼をここに持ってくるだけ!」
こちらから尋ねる前に要求してくれるとは、話が早い。
毛の間に挟んでいた魔眼を差し出すと、プリンボは驚いた顔で手に取り、「実際に触るとブヨブヨしてんな!」と言って雑に揉みしだいた。
「あのバケモンは何千年もの間、沈黙を保ったまま万物を見つめてきたと言われてるんだ」
うちのお義母さんみたいにな! とまたしても豪快に笑い、彼は手にした魔眼を自身の懐へしまい込む。
まだ渡すとは言っていないが、彼の中ではすでに商談成立らしい。
まあいい、元よりそのつもりであったし、価値を知っている者であれば適切に管理してくれるだろう。
魔眼について、それ以上の情報は得られなかった。
プリンボが背を向け荷を探り始めたので帰ろうとすると、「ほら、これを受け取りな」と言って何かを投げてよこした。
聖なる魔除けのかけらだ。
「おれには意味のないものだが、王冠の持ち主であれば使い道があるかもな」
クスっと笑い、「魔眼の対価か? 案外律儀だな」と言うと、プリンボは手をしっしっと払いながら「残りはあと三体だぞ!」と吐き捨て、奥へと消えていった。

アガレスはレーシィ不在の隙に復活した魔眼に魅入られ、取り憑かれてしまった。
司教は消滅させねばならない。
そうなると、残り三人も同じような者を生み出してしまうことは確定だ。
プリンボの求めに応じるか否かにかかわらず、原因を作る以上、我が最後まで責任を取らねばなるまい。
ハロの言葉を思い出す。
「これまで、世界は不変であった。
何百年と動きのない世界には錆が生まれていた」
その錆が今、落とされ始めたことにより、この地には安息が生まれる一方、安定が破られてもいる。
クラウネックはそれを、すでに決められていたことと言うだろう。
われらは変革を望む者の手の平の上で、踊らされているのだろうか。
待ち受けし者が復活し、死が統べる新世界に、我は存在するのだろうか。
わからない、今はまだ、何も——。