Cult of the Lamb(カルトオブザラム)日記5のつづき
※カルトオブザラムのゲーム日記、だったのですがゲーム内容を基にした二次創作の小説風にしてしまいました。※ネタバレにも触れています。
※設定を想像で補完しているところがあります。
※主人公の性格設定は見た目は子ども、中身はジジイです。
アットホームな職場です
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アガレスの魔眼は、また空を見ていた。
風を感じ、小鳥がさえずる声に耳を傾け、ときおり瞑想するそぶりを見せながら、思い出したかのように筆を走らせている。
声を掛けると、手にした帳面を胸に抱き、嬉しそうに顔をほころばせた。
「子羊様、たった今、ほがらかな今日という日にふさわしい詩(うた)ができました。聞いてくださいませんか?」
「ほう、ぜひ聞かせてくれ」
「ゼパルが好きなのはランチ、ブレナブレが好きなのはウンチ!」

◆◇◆◇
わが教団も設立から幾年かが過ぎ、今では若者から年配者まで、幅広い世代がそれぞれの持ち場で活躍するようになった。
教団の発展を支えるべく、木材を集める者、石材を運ぶ者、皆が役割を分担し、互いに協力しながら真摯に取り組んでいる。
とはいえ、信者の中には集団行動に馴染まない者も、当然ながら存在する。
夜闇の森から連れ帰ったアガレスの魔眼も、その一人だ。
教会に置いてあった帳面と筆をやたらと欲しがるので与えてみたら、それ以来、創作に没頭し、作業には一切手をつけなくなった。
記憶を失う以前からそのような暮らしをしていたのかと尋ねても、何ひとつ思い出せないという点は、今も変わっていない。
声を掛けると披露してくれる詩――というよりラップのようなもの――の出来は、正直「もうちょっとがんばろう」で、反応に困ることもある。
風情や情緒が欠けているところが、わが教団らしいと言えば、そうかもしれない。
作業をサボっていることで他の者から不満が出るのではと最初は心配したが、芸術家肌の特性として受け止められているようで、誰も気にしていない。
何より本人が楽しそうなので、これはこれでよいのだろうと、我も思っている。
アガレスの魔眼より信者を困らせているのが、イビキの大きなグレユルトレである。
ついに先日、他の信者から「何とかしてほしい」と嘆願されてしまった。
仕方なく、少し離れた場所にテントを設置したのだが――
我はこのイビキが大好きなので、つい一晩中聞いてしまうことがある。
「ぷう、ぷう」と繰り返される可愛い寝息の中毒性に、みんなも気づいてほしいような、でも独り占めしたいような、そんな気持ちで、ついついな。

個性的な面々が集まっている割に大きな争いごとも起きず、それなりに安定した日々を送ることができているのは、王冠が持つ神秘の力がなせる業なのかもしれない。
◆◇◆◇
だが、神がかりでもコントロールしきれないほどの欲望をぶつけてくる者も、時にはいる。
「情け深き教祖よ、軽蔑しないでほしいのですが・・・ウンチでできた料理を食べるのが私の夢だったのです!」

先日、涙ながらに見送ったわが教団最初の信者ファイアーブレも、かつてこんなクレイジーな願いを口にしたことがあった。
実は、ウンチ料理を食べたがる信者は、意外と多い。
ウンチは身体からの大事なお便り、だから白ヤギさんは読まずに食べたのだ、そう説明してもよいが、古の文献によると動物が食糞をする理由は、たいていの場合、消化しきれず残った栄養素を余さず取り込むための、いわば生存戦略なのだそうだ。
われらの祖先がそのような苦労を乗り越え、命を繋いできたことへの感謝と憧れが、信者たちの心を動かしているのかもしれない。
根底の「もったいない精神」は心の在り方を示す美徳でもある――とはいえ、軽蔑されるかもという自覚があるのなら我に頼まないでほしい。
自分で叶えられる夢のはずなのに、なぜか彼らは我に作ってもらいたいと懇願してくる。
調理台の使い方を教えようとしても、かたくなに拒み、どうかどうかと手を合わせるばかりだ。
アガレスの魔眼に「ウンチ好き」と歌われたブレナブレ曰く、「至高の存在たる子羊様が嫌そうな顔をして煮込んでいる姿が、たまらないスパイスとなって味に深みをもたらすのです」らしい。
「どうせ腹を下すだろう」と思いつつ食べさせてみたところ、さすが自ら言い出すだけのことはある。
ファイアーブレは食べ終えた後もぴんしゃんとして、ついぞ寝込むことはなかった。
「あなたは完璧な存在だ。心から感謝します、偉大な教祖よ!」

お主が幸せなら我も幸せだが、ソーシャルディスタンスは厳守するようにな。
深淵にて

烏賊に似た容姿を持つカラマールの庭は、「深淵の沼地」と呼ばれている。
そこは、水底の静けさに包まれた青の世界。
沼地の住人である臆病な海月たちは水草の林に身を隠し、近づく者があれば、すぐにふわりと逃げてしまう。
ほのかに光る頼りない灯り、時を止めた沈没船の残骸、沼地のすべてが繊細な美しさをまとい、夜になり影が濃くなると、さらに神秘の姿を見せてくれる。
この景色を一度でも見た者は心奪われ、長く忘れることができないだろう。

永遠を思わせる透明な領域に見惚れていたその時、突如として身体が硬直した。
――旧き信仰の司教が現れる前兆である。
やれやれ、せっかくのムードが台無しだ。
地の底から姿を現したカラマールの幻影は、間髪入れず過去の失敗例を次々と並べ立た。
「以前も貴様と同じような器が何度も送り込まれてきたが、ことごとく失敗した」
「奴が最後に送り込んできた器はあの臆病者、貴様の友人ネズムだ」
「それ以前にも多くの者が送り込まれてきたが、どいつもこいつも哀れで弱々しい器だった」
苦し紛れの陳腐な脅し文句からは、焦りと不安が透けて見える。
・・・精一杯、強がっているのではないか。
わが気勢を削ぎたいのであれば、恐れを隠し通さなければ効果はない。
なおも進撃を止めぬ我に、ついに業を煮やしたカラマールは、自らの権能を発現させた。
「貴様の教団に伝染病を振りまいてやろう!」

脳内に、荒れ地のヴィジョンが広がる。
カラマールの権能「疫病」の力により、次々、病にかかる信者たち。
ある者は高熱に侵され、ある者は嘔吐し、ある者は止まらぬ下痢に涙を流している。
混乱に陥る教団を見て、カラマールはさぞ優越感に浸っているだろう──そう思いきや、その顔は汚らわしいものを目にしたかのように歪んでいた。
荒れ地は阿鼻叫喚の地獄絵図となる・・・はずだった。
苦しみ息も絶え絶えな信者たちの傍らで、倒れ伏しながらも目を輝かせる者がいる。
それは、アガレスに「糞尿好き」と公言されていたブレナブレ。
さらに、心優しきグシオンまでもが同じ嗜好を露わにしている。
お仕置きをご褒美と受け止め、なお欲する変態──いや、頼もしき信者たちを目の当たりにし、カラマールは恐れをなしていたのだった。

「え、え、疫病や飢えでは貴様を止められぬようだ」
明らかに動揺している。
ああ、だがしかし、今すぐ穴があったら入りたい。
動かぬ身体が忌々しい。
「奴が死の淵から貴様を蘇らせるたび、貴様は前よりも強くなる」
体を小刻みに震わせながら、司教は声を張り上げた。
「——理解してくれ、赤き王冠を追放したのは我の提案ではない!
咎めるべきはほかの司教、我が兄弟たちだ!
お願いだ、我を見逃してくれ。
シャムラは殺してもいい。
だが我を死のもとへ、奴のもとには送らないでくれ!」
心の中であっけにとられた。
情けない、保身のために他の兄弟を生贄に差し出すとは。
これでは、兄弟を守るために戦ったレーシィ、ヘケトも浮かばれぬであろう。
敵とはいえ、哀れなものだ。
カラマールは青ざめた顔をさらに蒼白にし、心底怯えた様子で足早に消え去っていった。
クダーイの聖遺物
「獣よ、その聖遺物は・・・ケマックはまだ生きていたのだな。
だがその創作物は破滅をもたらすもの・・・それが自然の摂理ではあるが。」
剣を新調しようと鍛冶場へ立ち寄ったとき、わが懐から微かに放たれている神威に気付いたクダーイは、静かに語り始めた。

「原初の神々、その最後の一柱の胸中で、私たちは羽化した」
原初の神々・・・タロットや武器同様、われらが頭上に頂く王冠も原初の神々の手によって創られし神具ということであれば、クダーイたちから与えられる力が司教の神力を凌駕することにも説明がつく。
いや待て、『最後の一柱』?
そのことを問う間もなく、クダーイは話を続ける。
「神が如き道具を授ける立場ながら、私たちがそれを自ら扱うことはない。
それが自然の摂理ではあるが」
言葉をそのまま受け取れば、彼らは道具のために、目的を定め生み出された道具ということになる。
——何という憐れな存在か。
わが視線に気づいたクダーイは、語りすぎたとでも言うように居住まいをただし、聖遺物へと話を戻した。
「私の一部が、どこか暗い場所で・・・大きな生物の胃袋の中に眠っているのを感じる・・・。そして、その生物の骨を伝って、笑い声が聞こえてくるようだ・・・そこに向か
い、この聖遺物を探すといい」
ケマックは自身の兄たちすらも素材として、創作をしてしまったらしい。
しかし、大きな生物と笑い声か、最近聞いたような?
——うちのお義母さんみたいにな! アッハッハ!

臆病者のカラマール
「とるに足らない家畜よ! 己が立場をわきまえよ!
子羊よ、貴様は何も理解していない。
わが警告を聞き入れ、立ち去るがいい!」
カラマールの使徒であろうサレオス、ハボリュム、バアルゼブブを改宗し、いま目の前には信者に囲まれたカラマールが立っている。
彼を妄信する信者たちの命を使い、真の姿を現したカラマールは、10本の手足に持てるだけの武器を振りかざし、襲い掛かってきた。
追い詰められたカラマールはレーシィ、ヘケト以上の戦闘センスを発揮し、我を追い詰めてくる。
この者を排除すれば、残る旧き信仰の司教はシャムラただ一人。
決戦の場である祭壇まであと一歩と迫っていたとき、これから兄弟の身に起こる悲劇を確信したのか、シャムラは領域を飛び越え、我を金縛りで呼び止めた。
「カラマールは常に赤き王冠を恐れていた。
恐怖が彼を臆病者にしたのだ」
我が知らない司教たちの過去。
待ち受けし者を鎖で縛る戦いが苛烈なものであったことは、想像するに易い。
そのトラウマが、彼を臆病にしたのだと、あの者は言った。
「次に開かれるは我が扉か」
静かに語る声には、ある種の覚悟と諦めが宿っていた。
それは共に過ごした兄弟が消えていく悲しみなのか、自らの行いに対する後悔なのか。
それ以上、何をするでもなく姿を消したシャムラの影に、あろうことか我は憐憫を覚えた。
わが一族を葬った元凶だというのに。
わが太刀の前に倒れ、動かなくなったカラマールの内腑に手を突っ込み、未だ蠢く心臓を無理矢理引き出す。
これで3つ——ぬくもりの残る心臓を頭上に掲げ、徐々に脈動が弱まっていくのを確かめながら、胸に広がりつつある迷いを封じ込めた。
