Cult of the Lamb(カルトオブザラム)日記9のつづき
※カルトオブザラムのゲーム日記、だったのですがゲーム内容を基にした二次創作の小説風にしてしまいました。※物語の根幹にかかわる重大なネタバレがあります。
※設定を想像で補完しているところがあります。
※主人公の性格設定は見た目は子ども、中身はジジイです。
シャムラの罪

いよいよ「蜘蛛糸の揺籃(ようらん)」へと足を踏み入れる。
外界の光を拒む洞窟は、薄闇に沈み、無数の蜘蛛と毒虫が蠢く巣窟だ。
漂うのは死の気配――腐臭の帳が訪れた者を包み込み、息さえ重くする。
天井から垂れ下がる幾千の糸玉は、子を孕む揺籃。
その胎動は最奥へ至ろうとする者に、ここが安易な道ではないと冷酷に警告している。
シャムラ――最後の旧き信仰の司教。
この地に至る前、かつて司教たちが支配していた領域で、フクロウのハロは語っていた。
不運なるレーシィ、五柱の最年少。其が失いしは眼なり。
短気なるヘケト、彼女の喉は掻き切られたり。
頭からもぎ取られるは、臆病なるカラマールの耳。
そしてシャムラ・・・五柱の中で最も畏き者であった・・・頭蓋骨が削られるまでは。
悪を見ず、悪を語らず、悪を聞かず、悪を考えず。
どれも待ち受けし者によるものだ。
旧き信仰の司教たちの身体の傷は、待ち受けし者の抵抗によるものだった。
彼は他の兄弟の誰とも違っていた。
他の者どもが司るは流動なるもの、すなわち混沌、飢饉、疫病、戦争。
彼らにとって、万物は変化すべきものであった。
されど彼は不可逆にして不変なる存在、抵抗は無意味。
すなわち、待ち受けし者。
新しきを招き、旧き契約や原初の契りを壊そうとする彼の願望は、実に異常であった。
伝統は変わらず、願望は強まるばかり。
疑心は、信仰を真っ二つに引き裂いた。
抽象的で理解が難しいが、不変である死が変化を望んだが、受け入れられなかった、ということだろう。
血のつながりは鎖に変わり果てた。
際限なき願望は抑制され、封じ込められた。
この上なく伝染しやすい考えは、伝播する機会すら与えられずに断ち切られた。
実に残酷な話だ。
だが、嗚呼、他にどのような手段があったであろう?
死を殺す、そのようなことが果たして可能なのか?
――いいや、不可能なのだ。
発光植物の仄明かりを頼りに奥へ奥へと足を進めると、最後の一柱であるシャムラの影が姿を見せた。
彼は語る、5柱目である待ち受けし者の罪を。
彼は咎める、自らの過ちを。

彼は闇深き海の岩のそば、長けれど唐突に終わりを迎える崖の下で待っている。
鋭い牙を持つ獣の胃の中で、心臓はひとたび鼓動し、そして完全に止まった。
彼は五柱目。旧き信仰の五柱目の司教。
我らが兄弟、待ち受けし者。
かつてはナリンデルと呼ばれていた者だ。だが何千年もの時が流れ、彼は自らの役割に不満を持ち始めた。疑問を持ち始めた。
貪欲なる野望を抱き始めた。
そして軽率にも、我は彼を愛してしまった。
その因果の結果、我は正気を、彼は自由を失った。
我は賢さを失った、だが愚かになったわけではない。
終わりが近いことを、我は知っている。
真実を告白し、それを慰めとしよう。咎められるべきは我だ。
我は知識を司るが故に、彼に変革という考えを与えた。なぜならば知識とは流動なるものだからだ。
我にとっては変化こそが自然な状態だが、彼にとっては・・・この上なく異常な概念なのだ。
死は不可逆であるがゆえに。彼を鎖で縛ったのはこの我だ。
我ら四柱の手により、彼を支配下へと置いた。
何ということだ、このたびの騒動の火種を生み出したのは、シャムラその人。
聡明な賢者を惑わせたのは、愛だった。
その知識ゆえに、彼は五柱目の彼に変革を与えずにはいられなかった。
変化の結果、待ち受けし者は四柱がとうてい容認できない野望を抱き、対立することになってしまった。
その結果、シャムラは彼を鎖で縛り、かの白き地へと幽閉した。
ほかの司教へ真実を告げぬままに――。
シャムラは、待ち受けし者が自らの野心に囚われ、4柱の司教をないがしろにするなど予想できなかった。
それほどまでにわれらの絆は深いと、少なくとも彼は思っていたのだ。
一人語りを終えたシャムラは、瞳に深い悲しみと悔恨の念を宿している。
「貴様にそのような裏切りを理解できるか? 味方に裏切られる気持ちが。
どうだ、実際に試してみるか?」
時空の揺らぐ感覚――新たに現れたのは、荒れ地にいるはずのわが信徒たちだった。
シャムラの4つの目が怪しく輝く。
信徒たちはガクガクと身を震わせながら、手にした刃を振り上げる。
・・・「戦争」の権能だ。
「すみません、教祖様」
司教の影が去ると同時に、襲い掛かってくる信徒たち。
ソーゾウがいてくれれば洗脳キノコで無力化してくれたかもしれぬが、ここにいるのは我一人。
残念だが斬るよりしかたあるまい。
許せとは言わぬ、あの世で蘇生を待つがよい。

――「あの世で蘇生を待つがよい」だと?
自然の理に逆らう言葉が、流れるように口を突いて出た。
あれほど、死を軽率に扱うことを後悔していたというのに。
これではまるで、まるで・・・待ち受けし者そのものではないか!
クラウネックの聖遺物
提示されたタロットカードを選びながら、ふとケマックに会ったときのことを思い出し、口にしてしまった。
「すさまじい力を持っているのはわかる。だが、あの者を一人にしておいて本当に大丈夫なのか? その、自傷しているように見えたが・・・」
クラウネックは毛の先ほどの動揺も見せず、淡々と答える。
「わが妹ケマックの狂気は、はるか昔に彼女の血族により、カードが予言したものだ。これまでにも私が、他の運命を示してきたように――」
悩んだ末、右側のタロットを指さすと、頭の中に洞窟の情景がありありと映し出された。
目に映る景色と脳内の地図が混ざり合い、くらくらする。
「・・・彼女の生みの親である原初の神々が、すでに予言していたから、あのように成れ果てていても干渉しないというのか?」
目を閉じて、めまいがおさまるのを待つ。
彼らに兄妹の情を求めても無駄であろうが、あのままでは彼女はいずれ――。

沈思黙考していたクラウネックが口を開く。
「運命とは、追い求めるべき聖杯なのか。
――それとも先へと人を駆り立てる力なのか」
肝心な問いを煙に巻き、彼は並べていたタロットを再びシャッフルする。
1枚、2枚と二人の間にカードが並べてられてゆく。
「1枚目は灯台、2枚目は影、3枚目は失われた、もしくは奪われたもの。
だが逆位置なれば、探すべきものということだろう」
質のいいクロスの上に置かれた3枚のタロットを、二人でのぞき込む。
「探すべきものが、灯台にあると?」
答えは返ってこない。
いや、すでに示されている答えを彼が口にすることはない。
海側はいつも明るく照らされている。
光が届かぬ場所となると――ふむ、あそこしかないか。
「そなたとケマックとの思い出が、見つかるかもしれぬな」
返事はない。
だが、クラウネックがわずかに表情を変えたのを、我は見逃さなかった。
すぐに感情を読ませない顔に戻ると、彼はいそいそとタロットを片付けはじめる。
「また来るがよい」と小さな声で言った。
仕立て屋のベリト
陽気な音に誘われて部屋に足を踏み入れると、「お客様!」と呼び止められた。
暗い領域内でとびきり目立つ、色とりどりの布を縫い合わせた可愛らしいテント。
声の主は、青とピンクの毛糸で編みこまれたカーペットの上、丁寧な刺繍が施されたクッションへ身をゆったりと預け、6本の手をせわしなく動かしていた。
手にした編み棒を止めると、上から下まで何度も視線を走らせ、我の全身を眺めまわす。
「見た目がとーっても・・・味気ないですね」
率直な言葉を最大限やわらげ、ニコッと笑顔を見せたそのイモムシは、ベリトと名乗った。
我のことは風のうわさで聞いていたらしく、いずれ挨拶に出向くつもりだったという。
「んー、そんなファッションセンスの教祖だと、信者たちもさぞ粗末なんじゃないですか?」

先ほどまでの遠慮はあっという間に消え去り、はっきり「粗末」と指摘されてしまった。
「ご希望であれば、上質なファッションデザインをお売りしますよ!
私、家業で仕立屋を営んでいるんです。
間抜けのボップ以外は・・・・・・。
ああ、これは失礼! ダメな兄弟が出て行ったことを考えていました」
そういえば先日、オシャレに気を配るエリカから不満の声が上がっていた。
この機会に新調するのも悪くない。
「ファッションデザインか。ちょうど教団服を新しく仕立てようと考えていたところだ」
うんうん、と満足そうにうなずいたベリトは、「ちょっと失礼」と言ってテントの中をゴソゴソと探り始めた。
振り向いた手には、筒状に丸められた紙が握られている。
「それでしたら、素敵なデザインをクラフトする場所が、まず必要となります」
ご検討ください、と言いながら手渡された紙を広げると、そこには仕立工房の設計図が描かれていた。
「では、戻ったら早速建設を行おう。
取り急ぎ1着、作業に差し支えのない、素朴な服を見繕ってくれるか?」
ベリトは顔を輝かせ、「おまかせください」と言うや否や、6本の手をフル稼働させ、あっという間に1着のデザインを仕立て上げた。
「おお、なかなかよいではないか」
「なんと素晴らしい審美眼! あなた、最高のセンスをお持ちですね?」
よく聞けば自画自賛なのだが、そんなことは意に介さず、新しい顧客をひたすら褒めちぎるあたり、商魂たくましい。
出来上がったデザイン案を受け取り、また立ち寄ることを告げて店をあとにした。
「またのお越しを」
背後の仕立屋からは、編み棒を動かすチャカチャカという音が、いつまでも響いていた。
母の想い
かつては心臓を与えるなど考えたこともなかった我であったが、2人の子を授かり、真の愛を見つけたのだ!
だがあのけだるい夏の日、美しい我が子たちは奪われた・・・。
人々はそれを贈り物だと言った。
そう、彼らがこの上なく愛する者、待ち受けし者への贈り物であると・・・。
我は嘆き、泣き叫んだ・・・。
だが、神の意志を拒むことなどできようか?
品を選びながら、何気ない雑談の折にシャムラのもとへ向かうことを告げると、その途端、彼女はぽろぽろと涙をこぼし始め、家族に降りかかった悲劇を語り出した。
彼らがこよなく愛する者、そして神の意志。
旧き信仰の司教たちに迫られ、彼女は子どもを差し出さねばならなかった。
待ち受けし者の前には、常に二人の従者が控えている。
おそらく、あの者たちがそうなのだろう。
「・・・遠くからではあるが、我が見た限り、息災であったぞ」
そう告げると、彼女の涙に濡れた瞳は一瞬、輝きを取り戻した。
「彼らが何処にいようとも、我と同じく、敬虔で愛情に満ちていることを祈っている」
幼き頃から待ち受けし者の影響を受けて育った彼らは、どのような青年へと成長しているのだろう。
「また、子どもたちの様子を聞かせてほしい」
そう懇願されはしたが、次に待ち受けし者と会うのは、司教たちを滅した後だ。
果たして、その答えを彼女に持ち帰ることが、我にできるだろうか――。


