Cult of the Lamb(カルトオブザラム)日記10のつづき
※カルトオブザラムのゲーム日記、だったのですがゲーム内容を基にした二次創作の小説風にしてしまいました。※設定を想像で補完しているところがあります。
※主人公の性格設定は見た目は子ども、中身はジジイです。
ヴァレファールの恋
レーシィの元信徒、ヴァレファール。
皮肉屋で怖いもの知らず、忖度せずに立場を問わず物申す性格ゆえ、我をヤキモキさせることも多いが、何だかんだで長い付き合いが続いている信者の一人だ。
そんな彼から、使徒になりたいとの申し出を受けた。
「子羊様、私を使徒の一人にしてください。
ほかの誰よりも一生懸命働きますから」

「うーむ、忠誠心は確かに他の誰にも引けをとらぬほど高まっておるが、使徒というのは我の代行も務める立場。それだけでは駄目なのだぞ。
もう少し大人の対応を覚えてからでもよい気がす」
「お願いです!!! 私の忠誠心は教団一なのです!!!!」

「・・・その、人の話を最後まで聞かないところとかな。
だが、夜闇の森でレーシィに見捨てられたお主を連れ帰ってから、ずいぶん年月を重ねた。
宣教で外の世界を見たり、年配の信者を世話したりする中で、世の理も学んだであろう」
あのとき悪魔に体を乗っ取られていた彼は、まだ年若い青年だった。
混沌を信奉するレーシィに魅了されたのも、幼さゆえの憧れだったのだろう。
それまでとは真逆の、秩序を重んじる生活に慣れるまで時間はかかったが、穏やかに人生の経験を積ませることで、かつての気性は影を潜めていった。
ただ、皮肉屋なところは相変わらずだが。

「よし、わかった。
次の儀式でお主を使徒に任命しよう。
皆の手本として恥ずかしくないよう、一層精進するのだぞ」
そう告げるとヴァレファールは何度も頭を下げ、手を振りながら作業へと戻っていった。
◆◇◆◇
使徒に任命した翌日――
「ブレメルメルはとても美しい、そう思いませんか?
私たち2人なら、子作りテントにピッタリだと思うんです!」

急にどうした。
美しいかどうかは個人の感覚によるとしても、遠回しに自分も美しいと言っていることに気付いていないのか。
まあいいのだが。
それにしても子作りか。
興味がないと思っていたが、そういえば使徒に任命した後、こんなことを言っていた。
「バカげたことに聞こえるかもしれませんが、われわれのような単純な生き物にとって、わが家と呼べる場所を見つけるのは難しいのです。
ここに来るまで、私は常におびえていました。
友人も家族もおらず、できるのは隠れることだけ。
・・・でも、子羊様が見つけてくださいました」

わが家、か。
思い返せば、四司教に村を焼かれ、一人生き残った者を連れ帰ったとき、殊の外親身になって世話をしておった。
もしかしたら、自身の過去に重なるものがあったのかもしれぬ。
「――あいわかった、この地をわが家とし、子を成したいと願う気持ち、嬉しく思うぞ。
ブレメルメルとテントを使う許可を出そう。
ただし、交渉は自分でするのだぞ」
そう告げると、ヴァレファールはぱっと笑顔を咲かせ、軽い足取りでテントへ駆けていった。
さて、ブレメルメルは・・・聖別中であったか。
作業場へ歩み寄ると、こちらに気付いた彼は聖なる祈りを中断し、ひざまづいた。
「集中しているところ、すまないな」
神妙にするブレメルメルに事の次第とを伝える、ヴァレファールを持ち上げるエピソードを2つ3つ添えて。
無言でうなずいた彼は湧き水で身を清め、その足でテントへと向かった。
その背を見送りながら頭をかく。
今の様子だとまったく興味がないように見えるが・・・しまった、断られる可能性を考えていなかった。
ヴァレファールの浮かれようからして、断られでもしたらショックで荒れるかもしれぬ。
そのとき、教団一の情報通であるチーママのタエが意味ありげに話しかけてきた。
「おそれいります教祖様。
お話が少し耳に入ったのですが・・・何か気がかりな事でも?」
「タエか。いや、ヴァレファールの願いを叶えてやりたいのだが、相手があまり乗り気でなさそうでな」
「ああ、そのことでしたら、ご心配は無用かと。
昨日、ヴァレファールを使徒に任命されましたよね?
ああ見えてブレメルメルは肩書に弱いですから、断ることはないと思いますよ」
「肩書に弱い? ふむ、まったくそのようには見えないが。
あの寡黙なブレメルメルが、意外だな。
・・・ではない、待て待て。
それでは、ヴァレファールはブレメルメルとテントを使いたいがために使徒になったようなものではないか!」
タエは何も答えない。
しばし、タエと視線を交わしたまま唖然とする。
はっと我に返りテントへすっ飛んでいくと、すでに二人はいいムード。
止める間もなく手に手をとってテントに入り、ゆっさゆっさと豪快に揺らし始めた・・・。
3時間後――
標準より長めの同衾を終え、そろって出てきた二人は憔悴しきっていた。
ヴァレファールの手には卵が抱かれ、それを愛おしそうに見つめる表情には聖母が宿っている。
まったく・・・またしても気持ちにモヤがかかる結果となってしまったが、経緯はどうあれ家族を求める気持ちに偽りはあるまい。
愛情を注ぎ、大切に育てるのだぞ。
我も協力するからな。

「子羊様、このたびは私のわがままを聞き届けてくださり、ありがとうございました」
神妙な顔で報告に来たヴァレファールに体の調子を尋ねると、そちらに関してはまったく問題ないという。
「ただ・・・」
ただ?
「正直、ビミョーでした。」


そういうとこだゾ
エリカという女
暗闇の中に、一人の信者の背が浮かび上がる。
微かに乱れる呼吸音。
周囲には肉の焦げる匂い。
時折、クチャクチャと柔らかな物体を咀嚼する音が、まどろみに沈む教団内に響き渡る。
「あーもう、暑すぎるんですけど!」
皆の朝食作りをしている信者が、悪態をつきながら乱暴に調理器具を動かす音が聞こえてくる。
――あれは、わざとだ。
我を呼びつけるために。
草木も眠る丑三つ時。
ランタンの微かな灯りを頼りに、キッチンへ足を向ける。
彼女の名はエリカ。
夜行性の特性を持ち、昼夜逆転の生活を送る信者だ。
「エリカ、どうかしたか?」
穏やかに、これ以上機嫌を損ねぬよう注意深く声を掛ける。
調理を終えた肉を葉に包み、意外にも丁寧にはじへ寄せると、保存箱から新たな肉を取り出し鉄板へ投げつけた。
肉の焼ける音と香ばしい匂いが、瞬く間に周囲へ広がる。
「教祖様、肉料理やめてサラダにしません?
暑いし体は肉臭くなるし、油でベトベトするんですよ」
焼けた肉をひっくり返し、器具で押さえつける。
あふれ出た肉汁がジュウウと音を立てて蒸発する。
ミディアムレア――ちょうどいい焼き加減。
文句を言いながらも、彼女の調理の腕は確かだ。
「いやな、実は海の向こうから来た者から、肉を食べないと仕事に張り合いが出ないと言っていてな。
このところ食材不足で質素な料理が続いていたし・・・すまんが頼む」
できる限りの申し訳なさを含ませ説明する。
「はあ? あの程度で?」
ガチャン、と大きな音を立てて、彼女が器具を置く。
思わず体がビクリと震えた。
「教祖様がそういう甘えに付き合うから、私まで体重が増えてしまったんじゃないですか!
今までの生き方に慣れすぎているんですよ。
苦しみこそが人格を形成するのです!」

――体重が増えたのは、調理中につまみ食いをしているからではないのか。
もちろん、そんなことは口に出せない。
「逆に、しばらく簡素な食事だけを出すのはどうです?
彼らもわが教団の生活を理解し、信者として一歩成長するでしょう」
「そ、そうであるな。
たまには雑草食をして、体内を浄化するのもよかろう」
ふん、と鼻息を一つつき、再び器具を動かすエリカ。
その姿を横目に、忍び足でその場をあとにした。
雑草か・・・また信者たちの不況を買うな。
トボトボと歩く我の情けない姿を、真ん丸の月だけがじっと見ていた。
◆◇◆◇
「ここに建ててくれ」
ベリトから受け取った仕立屋の設計図を皆に示し、作業の指示を出す。
切り出した木材を運び、手際よく組み立てていく信者たちの大工の腕は職人級だ。
だが、完成まであと一歩となったころには日も暮れ、ハンマーを握りながらうつらうつらと船を漕ぎ始めている者もいる。
仕上げは我が行うこととし、就寝するよう促すと、信者たちは「おやすみなさい」と口々に言いながら、テントへ向かっていった。
釘を打ち付けていると、薄暗がりの中、エリカが近づいてくる。
「教祖様、この建物は何ですか?」
「ああ、以前お主が教団服の話をしておったろう。
たまたま、仕立屋と懇意になってな、デザインを譲り受けたのだ。
だが、縫製まではしてくれないのでな」
もらったデザイン案を見せると、彼女は目を輝かせた。
「別のデザインもあるのですか?」
「うむ。領域に出向いたとき、店があったら寄ってみるつもりだ」
設置された縫製機を物珍しそうに眺めるエリカは、とても嬉しそうだ。
次のデザインを早めに用意しないと、せかされるかもしれんな。
縫製機の扱いにはコツが必要だった。
まず右側の車輪を手で回すと、針が上下に動き上糸と下糸を絡ませる。
同時に足元の踏み板を前後に動かし続けることで回転が維持される。
車輪を回し、タイミングよく板を踏む。
脚の短い我でも扱えるよう、信者たちが特製の机を用意してくれたが、これがなかなか難しく、慣れるまでしばし練習を要した。
タタタ・・・と軽快な音をたてながら服を縫い合わせていると、宣教から戻ったばかりのエリカが声を掛けてきた。
「教祖様、少しお話が」
「ふむ? 眠らなくてよいのか?
今日は夜の作業も休んでよいのだぞ」
「・・・私は、あなたの信頼に応えられていますでしょうか」
「なんだ突然。もちろんだ。
このたびも3日の遠征に赴いてもらったではないか。
わが教団にとって、お主はなくてはならない人材であるぞ」
「それであるなら、使徒となった私に、もっとよい服はありませんでしょうか」

「もっとよい服、か。
今、お主が来ている服も使徒にしか与えていないデザインなのだが、不満か?」
「もちろん、このドレスも気に入っています。
ただ、神に仕える身には少々華美ではないかと。
使徒としてふさわしい、洗練された見た目になりたいのです」
確かに、汚れを気にする長さではある。
「貴族のジャケットなんか、ぴったりだと思いませんか?」

いつの間にか縫製機の横に置いていたカタログをめくっていたエリカは、該当のデザインを指で示す。
シャツにジャケット、タイを合わせたシンプルな装い。飾りがない分、逆に高貴な印象を与える。

「使徒にふさわしいとなると、ローブがよいのではないか?」
「いいえ。
皆に指導して回ることを考えると、フォーマルかつ動きやすい装いのほうが実用的です」
言われてみれば、確かにそうだ。
「実際に着る者が言うのであれば、その通りなのだろう。
材料もそろっているし、この程度なら数日でできる。
しばし待つがよい」
はい、と返事をすると、エリカはテントへ歩いて行った。
彼女と入れ替わりに、チーママのタエが近づいてくる。
チラチラとエリカの後ろ姿を見ながら、小声で話しかけてきた。
「教祖様、エリカにジャケットを新調されるのですね」
「彼女が欲しがる本当の理由を知っていそうな口ぶりだな」
タエはもともと酒場で店主を支えていた経歴を持つ信者だ。
従業員の教育を一手に担い、店内の輪を乱さぬよう気配りを欠かさず、困った客には事前に手を打つ。
主が経営に集中できるよう、店を円滑に回すことが誇りだったと聞いた。
噂話を収集してしまうのも一種の癖で、長年染みついた習慣らしい。
「いえね、噂によると彼女、イケボのジョーとテントを使いたがっていたらしいんですよ。
ジョーの気高さに釣り合うため、見た目から整えようとしたのでしょう」
またテントか。
まあ、そのために使徒になりたいと言ったヴァレファールよりはマシだが。
「秘めたる素質といい、エリカであれば、そのままでも十分なように思えるがな」
「周りからどう見られていようとも、自分に自信がないのは皆、同じでございますよ」
翌日、説教を終えたのち完成させた貴族のジャケットをエリカに渡すと、早速着替えた彼女は鏡を見てうっとりとしていた。
「このイケてる生き物が私だなんて、信じられない・・・!」

イケてる生き物・・・。
「教祖様、もう一つ、お願いしたいことがございます」
頬を紅潮させ、もじもじと身体をくねらせながら、エリカは次なる要望を口にし始めた――。
◆◇◆◇
何だ、これは。
保育室を見た我は、言葉を失った。
「教祖様、わが子がウンチに埋もれているじゃないですか!
早く掃除をしてください!」
帰還陣の前で待ち構えていたエリカにどやされ駆けつけると、確かにそこはウンチまみれであった。

保育室を埋め尽くす、山のような汚物。
その塊に押され、子どもは隅で小さくうずくまっている。
子どもは代謝が早いと言うが、半日留守にしただけでこうも溜まるとは。
掃き掃除をし、汚れたカバーを交換する。
ポンポンとクッションを叩き、ほこりを落としてから定位置にきれいに並べた。
吊るしたモビールを軽くつつくと、金色の飾りが光をはじき、キラキラと輝く。
その様子を見て、彼女の子どもは可愛い声をあげて喜んだ。
近くで見ていたエリカが、安堵の息をつく。
「まったく、どこに行かれていたんですか。
寝ているところを起こされ何事かと来てみれば、見て早々、叫び声を上げましたよ」
腰に手を当て、じりじりと詰め寄ってくる。
「保育室に安易に近寄らないよう周知したのは教祖様ですよね。
教育に差し障ることもあるからって。
つまり、掃除は教祖様しかできないんです。
わかっておられるのですか?」
何も言い返せず、小さな体をさらに小さくする。
「すまない。
今度から気を付ける」
「今度? 何かあってからじゃ遅いんですよ。
もう、子どもが独り立ちするまで外出しないでください」
ピシャリと言われ、消え入るように「わかった」と答えると、彼女は子どもを抱え上げ、「ねー、ダメな教祖さまですね」と語りかけた。
いつもの高慢さは影を潜め、そこには子を慈しむ母の姿があった。
自分そっくりの子を胸に抱いた彼女は、目を閉じてあやすように歌い始める。
鈴の音にも似た澄んだ声が大気に溶け、風となって流れてゆく。
――エリカは恋多き女だ。
惚れっぽく、切り替えが早く、出会いのたびに新しい恋へと進んでゆく。
必然、テントの使用率も高くなり、教団内には彼女の子孫が多く暮らしている。
教祖に遠慮のない態度を、よく思わぬ信者も中にはいる。
だが、身のかわし方を心得ている彼女は、逆にそうした者へ近寄り、いつの間にか従わせてしまう。
美しく、頭が回り、気が強い。
一言で言うと、スキがない。
魔性の女と揶揄する声も、ときどき耳にする。
その美しさを誇り、奔放に生きるエリカ。
彼女を見ていると、信仰という楔を得ることができたのは、ある意味救いだったのではないかと思うのだ。
「教祖様、私、夜までもう少し眠りますね」
いつの間にか歌はやみ、腕に抱いていた子をベッドに降ろしたエリカが、テントへ戻ろうとしていた。
「ああ、休んでいたところすまなかったな」
「いえ、子が心配なあまり、私も言い過ぎました。
私たちのために身を粉にして働いてくださり、いつも感謝しています」
殊勝なことをいきなり言われ、きょとんとする。
「何ですか? 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
クスリと笑い、エリカは囲いの草をかき分け、外へと出ていった。
魔性の女、か。
やれやれ。
こみ上げる苦笑いをそのままに、作業場へと足を向けた。