Cult of the Lamb(カルトオブザラム)日記11のつづき
※カルトオブザラムのゲーム日記、だったのですがゲーム内容を基にした二次創作の小説風にしてしまいました。※設定を想像で補完しているところがあります。
※主人公の性格設定は見た目は子ども、中身はジジイです。
ヤーレンの闇
「教祖様、ウェパルにドッキリを仕掛けたら面白いと思いませんか?」
巡礼でこの地に赴き、そのままわが教団に入信したヤーレンが、突拍子もない企画を持ちかけてきた。
「ウェパルは好き嫌いが激しいんです。
だから――ウンチを食べさせましょう!」

「ウンチとは・・・ずいぶん強引な発想だな。だが、仕掛けを隠しようもない教団内でドッキリとなると、それくらいしか思い浮かばぬか。
まあ、今は手すきでもあるし付き合ってやろう」
「ありがとうございます! いや~楽しみだな~ウフフ」
ウェパルを呼び寄せ、料理の正体を告げずに椀を差し出す。
空腹だった彼は勢いよく口に運び、あっという間に完食した。
やがて――口内に広がる異臭に気づいた彼の顔が、みるみる青ざめる。
「ウッ!」と叫ぶと食器を投げ捨て、一目散にトイレへ駆け込んだ。
物陰から見ていたヤーレンは、手を叩いて大笑いしている。
「あなたのようなユーモアある方が導いてくれるなんて、私たちはとても幸運です!」

「うむ、ドッキリは大成功であったな」
だが・・・いささかやりすぎたかもしれぬ。
「あとで事情を説明して、必ずウェパルに詫びるのだぞ。
口直しにドリンクスタンドを開放しておくから、仲直りも兼ねて楽しむがよい」
◆◇◆◇
「教祖様、この前のイタズラは最高でしたね!
もう一度やりましょう!!」
ヤーレンが無邪気な様子で声を掛けてきた。
「この前とは、ウンチ料理のドッキリか?
あれは体調を崩す恐れもある。
本来、食してはならぬ料理なのだぞ?」
「大丈夫! ウェパル自身も楽しんでくれるはずですよ!」

「ウェパルも楽しんでいたのか?
そうか・・・それならよいのだが」
過激なイタズラが海の向こうでは流行しているのだろうか。
二度も食べさせるのは気が引けるが、笑いにおいて「繰り返し」は重要な技法とも聞く。
ウェパル自身が楽しんでいたのなら、もう一度くらいは付き合ってもよかろう。
再びウェパルに料理を食べさせる。
前回と同じく顔を真っ青にした彼は、気持ちが悪いと言いながら下した腹を抱え、テントへと歩いて行った。
「同じドッキリにまた引っ掛かるなんて!
気付かずに全部食べきるなんて、正直驚きですよね」

その後もヤーレンの企画は続き、内容は次第にエスカレートしていった。
「次は、彼を首枷に捕まえましょう!
ビビって震えあがる姿、絶対面白いと思うんです」

「ハハッ! 混乱して怖がってるあの顔――本当に面白かった!
今回のドッキリを超えるにはどうすればいいのか、また考えないとですね!」

「・・・本当にウェパルも楽しんでいるのか?」
「もちろんですよ!
毎日作業の繰り返しで、たいくつしている顔ですよ、あれは。
日常にはないスリルを、内心では楽しんでいるはずです!」
首枷から解放され、放心しているウェパルを見やる。
――とても、そうとは思えなかった。
◆◇◆◇
「さあ、最高峰のドッキリを仕掛けましょう。
・・・ウェパルを殺すのです。
これは絶対、面白くなりますよ!」

降りしきる雨の中、ヤーレンの双眸は昏い狂気の炎を宿し、らんらんと輝いている。
「・・・お主とウェパルの間に何があったのだ?」
静かにそう問いかけると、ヤーレンは歪んだ笑顔を凍り付かせた。
やがて立膝から正座へと姿勢を変え、うつむいて黙り込んでしまう。
首枷の件のあと、一連の出来事を見ていた信者から、ヤーレンとウェパルがある時期を境に、仲違いをしていたことを聞いた。
それまでは常に一緒にいて、テントも隣同士にするくらい仲が良かったのだという。
弱まることのない雨の音だけが、二人の間に流れ続ける。
ひざに置かれたヤーレンの手は固く握りしめられ、かすかに震えていた。
顔を上げようとしない彼の頭をそっと撫で、その場をあとにする。
視線の先には、他の信者と談笑するウェパルの姿があった。
それから、ヤーレンは事あるごとに忠誠を口にするようになった。
内なる醜さに操られ、歪んだ願いを叶えさせた我に見捨てられるとでも思っているのだろうか。
平静を装いながらも切迫した必死さを隠しきれない彼の心情を慮ると、憐憫を抱かずにはいられない。

「私はあなたを敬い、愛しています!」
朝日と共に告げるその言葉に、あのときのような偽りの色はない。
――案ずるな、お主のような者を救うために信仰があるのだ。
微笑みで応えるとヤーレンは安堵の表情を浮かべ、すでに作業が始まっている木工場へと、元気よく駆けていった。
忍び寄るは死の影
はじまりは、ノナナであった。
1日の作業を終え、寝所へ向かう信者たちの流れに逆らいながら我のもとへと駆け寄ったノナナは、誰にも聞かれないよう周囲を注意深く見回したあと、小さな声で訴えた。
「私はあなたに命を捧げたいのです――どうか、私を殺してください」

いつも笑顔を絶やさず、天性の朗らかさで輪の中心にいたノナナが、内心で殉教を望んでいたことに驚いた我は、いつ心を決めたのか尋ねた。
「・・・ずっと、ずっと前です」
そう言って目を伏せ、手を合わせるノナナ。
頼りなげな肩はかすかに震え、頭を垂れた姿からは揺るぎない決意が伝わってくる。
しばしの沈黙ののち、ふう、と息を吐いた。
「信仰に殉ずることこそ信者の誉とはいえ、そこまでせずともみなの信心を疑うことはないのだが――わかった。
覚悟を受け止めることも教祖の役目であろう」
「ありがとうございます。
残した荷物のことなど、私が去ったあとの雑事はすべてハボリュムに委ねております。
どうか、ご心配なさらないでください」
日はすっかり暮れ、遠くからフクロウの鳴き声が聞こえてくる。
夜闇の中、せめて苦しみが訪れぬよう、一瞬でノナナの首を折った。
常に人に囲まれていた彼女を見送ったのは、当然ながら我ひとりであった。
◆◇◆◇
あくる日、昨日と同じ宵闇せまる頃、ウェパルに呼び止められた。
先般のヤーレンとのいざこざはひとまず落ち着いたと思っていたが、また何かあったのだろうか。
「私はあなたに命を捧げたいのです――どうか、私を殺してください」

「何だと? 昨日、別の者から同じ願いを聞いたばかりだぞ」
しかも、ノナナと一言一句たがわぬ言葉での要求である。
死を望むウェパルの目に迷いはなく、昨日今日の急な思い付きで言っているのではないように見える。
信者たちが我の知らぬところで、そうした倶楽部活動でも始めたのか?
いや、まさか勝手な行動をとるとは思えぬ。
いずれにせよ、さすがに2日続けて命を捧げてもらうわけにはいかぬ。
なかなか引かないウェパルを「今はその時ではない、今日のところはゆっくり休め」となだめすかし、寝所まで引きずっていく。
布団へ無理矢理押し込むと、うらめしそうな視線を投げながらも、昼間の疲れからかすぐに眠りにつき、寝息を立て始めた。
騒ぎで目が覚めてしまった信者たちの、迷惑そうな気配を感じる。
いったい何なのだ。
足早にその場を離れ、満天の星空を見上げると、知らず溜息がこぼれた。
◆◇◆◇
さらにあくる日、今度は入信したばかりのタイナが「アガレスの魔眼を殺してみせろ」と言ってきた。

「まあ、できないでしょうがね」――挑発まじりに死を求める姿を見て、さすがに我の考え過ぎではないと気づく。
――わが教団は、残酷な死に囚われ始めている。
思い当たることは一つ。
待ち受けし者の催促だ。
我に、信者たちに情を移すことなく、早急に主命を成就せよと暗に告げているのだ。
シャムラを屠ったあと、あの白い空間で会った待ち受けし者の言葉を思い出す。
我を解放する時は来た。
お前には、赤き王冠を本来の持ち主に返すという栄誉を与えてやろう。
正直に認めよう。王冠を扱うお前の力量、我に肩を並べるほどであったと。
お前の持つ死への欲望には、我も感服したぞ、器よ。
だが、その王冠をかぶるにふさわしい者は存在しない、我以外にはな。
我にその命を捧げ、我が預けたものを返すのだ。
復活を前にして、わが信者たちの死を糧に、さらなる力を蓄えようとしているのか。
それであれば――そうでなくとも、その可能性を見据え慎重にならなければならない。
今、わが胸に生まれている覚悟にも似た決意、それを実行に移すのならばなおのこと。
タイナの挑発を冗談交じりに受け流し、立ち去ろうとすると、彼女は我の肩を掴み、先程来の直感を裏付けるかのように自身を生贄にするよう言い募ってきた。

待ち受けし者の力が強くなってきている今、信仰の薄い者ほど影響を受けやすいのかもしれぬ。
少し体を休めてから――そう思っていたが、運命はもう待ってくれないようだ。