Cult of the Lamb(カルトオブザラム)日記12のつづき
※カルトオブザラムのゲーム日記、だったのですがゲーム内容を基にした二次創作の小説風にしてしまいました。※物語のラストにかかるネタバレがあります。
※設定を想像で補完しているところがあります。
※主人公の性格設定は見た目は子ども、中身はジジイです。
死の、先を逝く者たちよ

レーシィ、ヘケト、カラマール、シャムラは煉獄へと堕ちていった。
待ち受けし者を縛り付ける鎖は、すべて解かれている。
今、我が成すべきことは、ただ一つ。
借り受けた王冠を、本来の持ち主に返却することだ。
教会堂へ皆を集め、最後になるかもしれない説教を終える。
これから行うことを説明すると、当然信者たちはざわついた。
だが、その先を想像ことは誰もしなかった。
否、恐ろしすぎて口には出せなかったというほうが正しい。
信者たちを連れ立ち、目的の魔法陣へと向かう。
心神専注――主命受諾――領域融解――
信仰の総力をもち死へと続く扉を開く。
そして、はじめて生身のまま虚無が支配する彼の地へと足を踏み入れた。
◆◇◆◇
待ち受けし者は、復活の喜びに身を震わせていた。
「器よ、お前の役目は終わりだ。
王冠を我に返し、終焉を受け入れよ。
この上なく忠実なる信者という最後の生贄を以って、我は自由を得るとしよう」

戒めから説かれようとする彼の声は、有無を言わさぬ威圧と、自由への喜悦に満ちていた。
確かに、そういう約束であった。
もとより首を落とされ、一度は死んだ身。
恩義を忘れたわけではない。
だが――。
うつむきかけていた顔を上げる。
待ち受けし者の後ろには、扉を開くため連れ立ってきた信者たちが檻に囚われている。
皆、不安な顔だ。
うながされるまま頭上に手を伸ばした。
王冠をはずし、そのまま抱え込むと、微かにウンチの臭いが鼻を突いた。
終わりを目前にした脳裏に、これまでのことが走馬灯のようによみがえる。
はじまりは確かに、使命のためであり、復讐のためであった。
信者たちは道具なのだと、待ち受けし者の言うとおり、何の情も持つまいと思っていた。
だが、だが――。
「・・・だめだ! わが身を捧げることはできぬ!」

信者たちと過ごした日々が力となり、運命の輪を急速に回し始める。
心の深くに沈み込んでいた決意――反逆の意志が、ぐんぐん浮上してくる。
これまで感じたことのない気力が体を駆け巡り、感情の高ぶりが抑えられない。
自分の中の何かがはじけた刹那、胸に抱いていた赤き王冠が宙へ飛びあがり、ポフンと頭に着地した。
待ち受けし者は信じられないものを見たかのような、驚きの表情を隠せないでいる。
王冠が、我を選んだ――?
「信者たちを解き放て」
わが手にかかりし4柱しかり、現世の神となりし者を選んだのは、原初の神が神威を吹き込んだ王冠の側だったのだ。
「重ねて言う、信者たちを今すぐ開放しないのであれば――滅す」
はるか頭上より見下ろす視線に、明確な殺意が込められた。
「待ち受けし者よ、旧き死の神よ、我は貴殿が思うほど従順ではない。
それとも、貴殿が与えてくれたこの王冠が、我に強き心を与えてくれたのかもしれぬ。
だとすれば――ナリンデルよ。
元より貴殿の消滅は、数千年の太古より定められていた運命と言えよう」
足元に鎮座していた従者が覇気を漲らせ、立ち上がる。
日輪の杖を持つものはバアルと名乗り、月輪の杖を持つものはアイムと名乗った。


この者たちはおそらく、待ち受けし者に献上されたフォルネウスの子息であろう。
だが、我も貴殿らと同様、けっして引けぬ理由があるのだ。
運命に同情こそすれ、刃をおさめるわけにはいかぬ。
◆◇◆◇
そして、いよいよこの場に残るのは2人だけとなった。
「それで勝ったつもりか?
お前は我の所有物だ、それを忘れるなよ」
やはり、どちらかが滅しなければ物語は終わらないらしい。

自由になった半身を引き抜き、待ち受けし者が立ち上がる。
まだ全身を現わしていないというのに、夜闇の森の木々に匹敵するほどの大きさだ。
巨体を見上げながらあっけにとられている我を静かに見つめ、彼奴は自由になった両手を祈るように合わせる。
瞬間、地面から突出する鎖が体をかすめた。

数千年来の空白を感じさせない激しい攻撃。
一瞬たりとも気の抜けない攻防が続く。
逃げまどいながらも勝利を信じ、一撃を丁寧に刻んでいくことしか我にはできない。
いま、我と信者たちは一蓮托生、絶対に負けることは許されない。
だが、我の心の片隅に残る一片の疑問。
待ち受けし者は王冠を授かり、生物が進化するに足る長き歳月を生きてきた。
冠がなくともこの神力だ、その間に偉大なる力と調和を果たしたと考えてよいだろう。
我を射差す第三の眼こそが、その証。
だが、死そのものと成りし者を、殺すことなどできるのだろうか。
「死を殺す、そのようなことが果たして可能なのか?
――いいや、不可能なのだ」
その後・・・

結論として、待ち受けし者は死ななかった。
あの日あのとき、彼の強大な力は第三の眼と共に封印された。
無力なケモノとなり、怯える彼を滅することも、あの場に置き去ることもできなかった我は、嫌がる彼の手を引き、強引に教団へと連れ帰ってきた。
結果として裏切ることになってしまったが、チャンスを与えてくれた恩人であることに変わりはない。
わが教団の教義は待ち受けし者が説いていた教えと同義であるはずなのに、入信したばかりの頃は不平不満ばかり口にしていた。
だが、長らく幽閉され退屈に飽いていたのだろう。
何度か作業に取り組むうち、その目新しさに楽しみを覚え、今では仕事を頼むと率先して手をあげてくれるようになった。

このたびの事件は、不変でなければならない死が、変革を求めたことにより起こった悲劇だった。
ハロの言う「この上なく伝染しやすい考え」が何であったのかは、未だにわからない。
だが、ここにいれば人がいる以上、何かしらの変化はある。
それが、伝播する機会すら与えられず、願いを断ち切られた彼への、せめてもの救いになるといい。
信者たちの記憶から、あの虚無空間での出来事は、きれいに抜け落ちていた。
待ち受けし者が自分たちを生贄にしようとしていたことも、覚えていない。
だから、新しい入信者である彼が集団に馴染もうとしないことを気に掛け、何かと世話を焼いてくれた。
彼も最初は迷惑そうにしていたが、しばらくすると人の温もりに慣れてきたのか、少しづつ心を開き、交流を持つようになっていった。
気心の知れた信者とゲームに興じ、笑い合っている姿もたびたび目にしている。

ただ、信者たちから余計な知識も与えられたのは困りものだ。
調理作業を頼むと、ひっきりなしに口をモグモグさせているのは、ヴァレファールの入れ知恵に違いない。
待ち受けし者が担当の日は量が少ないとクレームも入っているのだが――まあ、気のせいということにして大目に見ている。

神となりし者の幸せが何であるかはわからない。
だが、長年囚われてきた責務の重圧から解放され、凪いだ目をした彼の姿を見ていると、この結末でよかったのではないかと思えてくるのだ。

かくいう我といえば、新しき死の神となった今でも変わらず、毎日ウンチを片付けている。
信者たちからおかしな話を持ち掛けられては頭を悩ます日々が、これからもきっと続いていくのだろう。