それはさておき

脱力して生きていきたい

2025年の読書記録(澤村伊智、桐野夏生、はやせやすひろ)

ゲームばかりで本を読む時間がろくにとれなかった2025年下半期でした。

 

文芸

「パッとしない子」辻村深月

小学校の図工の教師、松尾美穂はその日を、ちょっと高揚した気分で迎えた。教え子で、人気絶頂の男性アイドルグループのメンバーになった高輪佑(たすく、25歳)がテレビ番組収録のため、母校を訪ねてくるのだ。10数年前、美穂が担任をしたのは、佑の3歳下の弟だが、授業をしたのは事実で、佑ファンの娘にも羨ましがられている。美穂の記憶にある佑は地味で、パッとしない子供だったし、プロはだしと称賛される絵の才能も、片鱗は見いだせなかった。撮影を終え、完璧な笑顔で現れた佑は、意外にも松尾に話したいことがあると切り出したが……。(amazon作品紹介)
パッとしない子 (Kindle Single)
ドキッとした。冴えない、大人しい、目立たない、そんな外面の印象をまとめた言葉「パッとしない」。私も不用意に使っていたことがあったかも。母校を訪れた元生徒と先生とのやりとりを通じ描かれているのは、その言葉が内包する無関心という暴力。本書の先生が生徒の内面をまったく見ていなかったことに思い至らず、「繊細な子」として片付けてしまったのは残念。自分に興味なかったくせに、有名になったからと言って知ったふりされるのは不愉快だよね。

※表題作1編のみ収録の作品でした。

 

「砂に埋もれる犬」桐野夏生

小学校に通わせてもらえず、食事もままならない生活を送る優真。母親の亜紀は子供を放置し、同棲相手の男に媚びてばかりだ。最悪な環境のなか、優真への虐待を疑い、手を差し伸べるコンビニ店主が現れる。社会の分断を体現する少年の魂はどこに向かうのか。(amazon作品紹介)
砂に埋もれる犬 (朝日文庫)
全体通して深刻で過酷な状況が描かれているものの、主人公・優真が持つたくましさのおかげで、このジャンルとしては淡々と読み進めることができた。優真だけでなく、母親、養子縁組をした夫婦、恵まれた家庭で育つ少女といった複数の視点が丁寧に描かれることで、被虐待児が抱える問題の根本が少しずつ浮かび上がってくる。

まあキツい。何がキツいって、優真の痛々しい行動の数々が見ちゃいらんないくらいキツい。美徳であるはずの素直さが悪い方向に働いてしまって、一度も会話したことのない女子に前振りなして「ライン教えて」って、そりゃあクラスで浮きますって。

生まれながらにして自然と身につくはずの社会性が欠如している子どもは、周囲の「群れ」にうまくなじめない。そのことを理解しきれない里親との間に生まれるすれ違いは、制度における大きな課題の一つなのだと思う。

ラストの先には希望があると信じたい。さまざまな立場の人々が抱える痛みが胸に残る、悲しい物語だった。

 

「などらきの首」澤村伊智

「ぼぎわんが、来る」に登場した霊感姉妹のシリーズ3作目。
などらきの首 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫)
澤村先生、ホラーが怖いです。

アホなことを言っていると思われてもいい。読んでいるときは何てことはなかったのに、最終話「などらきの首」を読み終わってしばらくしてから急に寒気が襲ってきて止まらないのだ。あえて描かないことで読者の想像力を刺激するという、余白の残し方がやっぱり巧み。安直な真実で締めないところにも著者のホラーに対するこだわりが感じられた。あとはそうね、私が悪霊化したら琴子さんに強めに祓ってもらいたいです。

「ゴカイノカイ」
雑居ビル5階に入居した者たちに現れる痛みの症状。拝み屋も逃げ出す状況に頭を抱えたオーナーは噂で耳にした真琴に会うためバーへと足を向けた。

「学校は死の匂い」
琴子の妹であり真琴の姉である美晴が登場。小学校の噂話の真相を突き止めるため、同級生の古市とともに解決に挑む。

「居酒屋脳髄談義」
居酒屋で後輩女子をいじめ、うさをはらすサラリーマン3人組。いつもは大人しくいじめられている後輩の様子が、今日は何だか違うようで・・・?

「ファインダーの向こうに」
心霊スポットで撮影した写真にまぎれこんだ、場違いな1枚。真相を探る野崎は、その道では名が知られている女性に会うためバー「デラシネ」へと向かう。

「などらきの首」
野崎がオカルト記者の道を歩むきっかけとなった土着の怪異譚。同級生の帰省につきそった高校時代の野崎。目的は、同級生を長きにわたり苦しめる悪夢の真相を解き明かすためだった。

 

「ぜんしゅの跫」澤村伊智

ぜんしゅの跫 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫)
幻想、都市伝説、奇妙、心霊、妖怪と多様な怪奇現象を題材にした短編集。などらぎに比べると怖さは軽減。ぼぎわん、ずうのめ、などらきを読んでいるとさらに楽しめる作りになっているが、さすがにずうのめの内容は忘れた。印象に残ったのは「鏡」。秀樹にはもっとおしおきが必要だと思っているので、さらなるスピンオフを期待している。

「鏡」
結婚式に参加した田原が体験する奇妙な出来事。

「わたしの町のレイコさん」
オカルト記者の叔母・湯刈弥生に憧れる少女・飛鳥が、都市伝説「レイコ」さんを見たという彼氏とともに真相を探る物語。

「鬼のうみたりければ」
元同期の女性ライター・希代子から呼び出された野崎。話を聞いてほしいという彼女の一人語りは、無職の夫と義母の介護に追われる日々から、ある出来事を境に奇妙な毎日へと変貌していく。

「赤い学生服の少女」
高速道路で事故に巻き込まれた古市。4人部屋の同室者たちが1人、また1人と亡くなっていく中、古市は近くの中学から運び込まれた赤い学生服の少女の噂を耳にする。

「ぜんしゅの跫(あしおと)」
怪異が関係していると思われる連続暴行事件。ケガをした真琴にかわり、琴子が野崎とコンビを組み真相を追う。

 

「待ち合わせは、闇の中」はやせやすひろ

待ち合わせは、闇の中
都市ボーイズというyoutuberの方が書いた本。「さまざまな地域で怪異譚を蒐集する怪異ハンター」の肩書を持つ方らしい。レビュー満足度の高さに加え、サンプルで読める「かねきくん」の続きが気になったので購入した。

収録エピソードも話を聞いている著者の反応もリアリティがあり、ブームになっている実話系怪談とは似て非なるおもしろみがあった。動画をそのまま文字起こししたような文章で読み口は軽く、読後、心に残ったものは正直ない。

へーふーんほおーと読み流せる本に1500円払う価値があったかどうか。著者のパーソナルに連なるエピソードも多く収録されていたので、彼らのファンであればより楽しめると思う。

 

異形コレクション「ヴァケーション」

長い長い自由時間。それこそが、ヴァケーションの醍醐味です。 〈日常〉の重荷から、思いっきり解放される〈 非日常〉の時間……。 すなわち、ヴァケーションとは、実に魅力的な〈非日常〉。――だからこそ。 実はこのテーマ、《異形》の物語と、とても親和性が高いのです。(序文より)
ヴァケーション~異形コレクションLV~ (光文社文庫)
今回も豪華な執筆陣。今年話題だった王谷晶さんの作品も収録。

◆芦花公園/島の幽霊
イビサ島に酷似した「いび島」に訪れた青年。昼夜を問わず付き添う美女に魅せられ、3日後に参加する祭りへの期待で胸を膨らませるが・・・。
◆田休み/宇佐美まこと
愛人のDVに疲れ果てた女が思い出したのは、祖母が体験した不思議な出来事の話。
◆記憶の種壺/篠たまき
ある植物に魅せられた女の話。
◆ジャイブがいなくなった/最東対地
姿を消したジャイブの痕跡を、彼の友人たちの話からたどってゆく。
◆新名智/今頃、わが家では
旅先で家の心配をする妻と、それをなだめる夫。つのる不安に押しつぶされそうになる妻に、夫はいら立ちをあらわにする。
◆縊 または或るバスツアーにまつわる五つの怪談/澤村伊智
5人の視点から見た、地下アイドルのファンミーティング。
◆休暇刑―或いはライカ、もしくはチンプの下位存在としての体験。/平山夢明
自由が失われた世界、反体制ゲリラとして活動していた男は捕まり、疑似体験装置のモルモットとして肉体を酷使されていた。最近日和ってんのカナーと心配していたけれど、こういう夢ちゃんを待っていたのだよ。
◆デウス・エクス・セラピー/斜線堂有紀
精神治療のため小舟で孤島を目指す少女。同乗していた青年は、彼女を踏みとどまらせようと必死に説得を続ける。
◆ファインマンポイント/柴田勝家
数字から想像を膨らませ、脳内で芳醇な旅をする。現地に足を運ばずとも頭の中で十分、とは主人公の言い分なのだが、そもそも現地の情報を知らなければ夢想できないよな、と思ったり。
◆観闇客(ダークツーリスト)のまなざし/津久井五月
マイベスト・異形バケーション。ラストで感動が押し寄せ、涙がぽろり。まさか異形で泣かされるとはなあ。今より少しデジタル社会が進んだ社会で生きる官僚が受け取った謎のメッセージ。そこから始まる交流で明らかとなる相手の正体。文化を継承していく大切さを考えるきっかけにもなる。
◆田中哲弥/サグラダ・ファミリア
現在と過去を行ったり来たり。実験的な文章なので、心構えがないと違和感に囚われるかも。
◆あの幻の輝きは/井上雅彦
レディ・ヴァン・ヘルシングと司書ジョン君の連作シリーズ3作目。
◆双葩(ふたひら)の花/空木春宵
映画「プラットフォーム」を和風にした感じ。
◆牧野修「オシラサマ逃避行」
動物性愛者「ズー」を遠野物語風に描いている。途中からファンタジー。
◆声の中の楽園/王谷晶
歌声で開く楽園の扉。

 

家族という呪い 加害者と暮らし続けるということ

家族という呪い 加害者と暮らし続けるということ (幻冬舎新書)
NPO法人で加害者家族を支援する著者が、実際の相談事例を通して「家族というつながりとの向き合い方」を問いかけている。

相談比率の関係か男性が加害者のパターンが多いものの、生来の癖や家族関係など事件の要因は様々。交通事故を含め誰もが加害者家族になる可能性を指摘しており、平穏な日常が崩れたときに備える必要があると提言している。言われていることは確かにその通りなのだが・・・生きることに必死だった時代と比べ、現代は家族になること自体のハードルが高くなってしまったものだ。「普通の家庭は加害者にならない」という思い込みや不穏な兆しから目をそらす姿勢が悲劇を拡大させているので、身近な相手を疑う勇気を持つことが大事なのだろう。