それはさておき

脱力して生きていきたい

2025年1月の読書記録(10年越しではまったダンジョン飯、今月の彼岸島)

KindleUnlimitedのラインナップが充実していた1月。映画公開にあわせ「正体」も対象になっていたのはお得すぎる。図書館本5冊、積読本も2冊ほど消化できました。内容に触れている本もあるので、ネタバレ気にする方はご注意ください。

 

文芸

「Iの悲劇」米澤穂信

無人となった集落を生き返らせるべく立ち上がったIターン支援プロジェクト。自治体職員の万願寺は住人を定着させるため奔走するが、次々と事件が起こってしまい、という話。
Iの悲劇 (文春文庫)
自治を守るという絶対正義の行きついた先が、今回の事件の全容であった。自治体という組織は本当に恐ろしい。結果のために何年もかけ、回りくどく策を弄する役人の姿勢を現実と照らし合わせると、ここまで無茶はしないだろうが所詮作り話なんだから、と一蹴できない真実味があった。

すべてを知った万願寺がたまらず口にした「棄民」という言葉、耳慣れない人もいると思う。私のような氷河期世代がまさに棄民と言われているわけだが、とても悲しい言葉である。正月に読んだこともあり復興の進んでいない能登の現状が重なって、なかなかしんどかった。

過疎地で生活するうえでの課題は目からうろこ。1軒もスーパーがない地域に住んで車に乗れなくなったら、救急車が到着するまで30分もかかる地域だったら、のんきに老後は田舎でのんびりなどと考えていたが、9割方気持ちは萎えてしまった。人が完全に去った土地は役目を終えたとし、自然に返すべきなのだろう。

 

「滅びの園」恒川光太郎

異世界のような不思議なユートピアと、〈未知なるもの〉の来襲によりディストピアと化した地球が物語の舞台。楽園に迷い込んだ男・誠一は戸惑いながらも幸せな日々を送っていたが、あるときから不穏な影が見え隠れし始め、やがて二つの世界は交わっていく。
滅びの園 (角川文庫)
上質なファンタジーを得意とされながらも、恒川さんはとことん現実主義の方。〈未知なるもの〉の目的や詳細が明かされず最後まで謎のままであるところにも、それが感じられる。

天国と地獄それぞれの状況を見せる構成となっており、読者に正しさの問いを投げかけながら、物語は進んでいく。でも正義なんてものは結局、他者の裁量によるもの。自分の幸福と世界平和を天秤にかけられたら、私だって前者を選ぶ。

物悲しい結末で余韻に浸ることができたものの、恒川作品としては普通。登場人物(特にセイコ)が好きになれず、しばしば読みとばしてしまった。

 

「どうしても生きてる」朝井リョウ

「適度に働いて、税金も納めて、そのまま日々を過ごし続けたい。それがひどく怠惰なこととして数えられるようになったのはいつからなのだろう。」
どうしても生きてる (幻冬舎文庫)
特別ではない、そこらへんにいる人々の半径5m以内で起こる出来事を描いた短編集。朝井さんの作品はエッセイをぱらぱらっとしか読んだことがなかったが、負の心理描写がうますぎて他作品も読んでみたくなった。あまりに的を射ていて、気が滅入るどころか劣等感や妬みを抱くのは当たり前のことなのだと、意識低くて上等と、等身大の自分を肯定された気分。物語の中の彼らは、私だった。

小さな世界の話で派手さはないものの、共感できることの多い作品だった。

 

「ちょっと今から仕事やめてくる」北川恵海

パワハラで自己肯定感が地の底まで落ちてしまった主人公が、同級生を名乗るヤマモトとの出会いをきっかけに再生していく物語。
ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫)
スキマ時間にさくさく読めるライトさながら、読後は充実感に満たされた。どこかで見た気がする話なのに、ヤマモトがいちいち優しいからさ~泣 いたわりに餓えているサラリーマンにはよく効く処方でした☆

他者との関係が希薄な社会になってしまったが、人と人とが繋がる大切さを見失ってはいけないと、あらためて思う。まあ今は退職代行がヤマモト的役割を若干は担っていそうだけれども。

 

「殺人依存症」櫛木理宇

殺人依存症 (幻冬舎文庫)
2作目で疑問だった真千代の素性と、浦杉との関係が分かる1作目。無抵抗な少年少女が理由のない暴力にさらされるというショッキングな内容ながら、刑事小説の趣が強いからか2作目よりは精神的ダメージを受けず読み終えることができた。

情報社化会の恩恵を受け、組織化された痴漢の手口には驚いた。ショッピングサイトを装った闇サイトがあることなど、まったく知らなかった。時代が進んでいるのだから当然、界隈も進化しているというわけか。

SNSで交流を続けるうち、相手を知った気になり警戒心が薄れてしまう経験をしたことがある人は(私含め)少なからずいるはず。本書のような小説は、自己防御意識を高める一助になっていると思う。

 

「残酷依存症」櫛木理宇

残酷依存症 (幻冬舎文庫)
大学における大規模な組織的輪姦事件をモチーフとした復讐劇。読んでも読んでも溜息しかでてこず、この類の話で得られるはずのカタルシスはほぼ感じなかった。加害者側の理屈が最後まで自己愛にまみれていることもまた、落ち込みに拍車をかけた。

理由もわからず痛めつけられる元加害者たちに多少は同情の気持ちが起こったが、謎のままだった出来事の真相が明かされたとき、そんな気持ちは消え失せた。想像するのを脳が拒否するほどの絶望。ほんと櫛木さん容赦ない。

残酷依存者とは誰を指しているのか、予想外に思いの巡る物語であった。そのことが表紙から伝わってこないのは、もったいなさすぎる。

 

「監禁依存症」櫛木理宇

監禁依存症 (幻冬舎文庫)
1作目を読んでいないと話がわからないシリーズ3作目。えっぐ。いやえっぐ。男性が考えることを本能的に拒否しているであろう、女性はすごく怖いことを考えている@荒木飛呂彦先生のお言葉どおりのお仕置きに戦慄いたしました。

男児誘拐事件と同時進行で描かれる浦杉の娘・架乃の日常が本作のメイン。前作と比べると大人しめの印象だが、架乃が抱く性犯罪への怒りや救いであるはずの法律すら敵にまわる社会への憤りは、共感するほど苦しさが増していく。

ミステリとして構成の妙も光っており、エピローグには驚きも。浦杉と真千代の決着として、これ以上ない結末なのでは。

 

「正体」染井為人

映画公開で話題の作品。文庫で600P強の長編だが逃亡した死刑囚と関わる人々の視点で連作短編風に描かれており、休み休み読み進めることができる。
正体 (光文社文庫)
こういう本は困る。彼の正体を知るほど逃げのびてほしい気持ちが強まってしまい、警察の手が間近にせまる場面になるとや本を閉じてしまうんだもの。理不尽がまかりとおる警察社会の根は深く、それが改善される未来が見えないことに怒りより恐ろしさを感じる。

あとがきには本作に込めた染井さんの強い思いが綴られていた。ここまで涙を流さず耐えてきたのに、最後の1行で泣かされてしまった。さーやが幸せになる未来を見たかったが、そんな理由なら仕方がない。やけに肩入れしてしまったんだよね、さーやに。純愛に心動かされるような女子成分が、どうやら私の中にも少しは残っていたらしい。

 

「カラスの親指」道尾秀介

自分史上最高のミステリは? という質問があると誰かしらあげる有名作も、アンリミの対象に。
カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
道尾秀介イコール物語に仕掛けがあると勘づいてしまうのは、もはや作者自身がネタバレと言ってもいいのでは。期待値が大きかった分驚きは少なかったが、オーラスの伏線回収は圧巻の一言。出来過ぎっちゃ出木杉ぎだけど、エンタメにそういうこと言うのも野暮だしね。そして、こんなに優しい道尾作品を読んだのは初めてかもしれない。

不幸な出来事に囚われている小悪党がチームを組み、元凶である大悪党に一泡吹かせる。痛快な駆け引きと過去と未来を繋げる人間ドラマで、評判通りの読みごたえだった。

 

「隠蔽捜査」今野敏

隠蔽捜査(新潮文庫)
事件が起きている現場ではなく、その裏で行われている会議室での駆け引きを描いた異色の刑事ドラマ。表紙とタイトルから受ける印象とは真逆の読みやすさ、キャラの魅力でぐいぐいと引っ張ってくれる作品だった。

エリート中のエリートである意識を隠しもしない主人公・竜崎。東大以外認めないだの、女は家庭を守るものだの、読み始めてからしばらくは彼の傲岸不遜な物言いが鼻について仕方なかった。だが、読み終わるころには官僚とはかくあるべきという信念と矜持をもって職務にあたる彼を、もっともっと追いたくなった。

警察組織における絶対的権力構造の中で立ち回らなければならない中間管理職の気苦労の多さにはめまいを覚える。頭脳をフル回転させ竜崎が東奔西走する姿を見たら、警察官僚になりたいと思う人はいなくなるんじゃないかしら。

 

「領怪神犯」木古おうみ

近年のカクヨム発ホラーはレベルが高い。宮部みゆきさんがおすすめされていたと言えば、その確かさが伝わるだろうか。
領怪神犯 (角川文庫)
超常的な現象をもたらす異質な存在を「神」と定義し、各地で起こっている怪異現象が神の手による「領怪神犯」なのか、担当公務員たちが調査を行っていく物語。人々の願いを叶えたり土地を守ったり、神様の本質をきちんと捉えつつも、それが必ずしも人間の幸せにつながるとは限らないところが、とても面白い。退治するといった白黒つける話ではないので、中途半端な結末に据わりの悪さを覚える人もいるかも。

 

「彼女。」アンソロジー

彼女。: 百合小説アンソロジー
女性同士の親密な関係をテーマとしながらも作家によってアプローチがまったく異っており、ミステリ、サスペンス、また少女小説としても楽しめるお得な内容だった。ビターテイストな話が多く、王道の百合は半分くらい。アンソロとしての質は高いものの、何を期待するかによって評価は分かれそう。

男を完無視する百合を栄養源とする私としては、「百合である値打ちもない」が2度読むほど気に入った。どんな困難に直面しても二人でいられる方法を考え続けるママユとノエ。この先もずっと一緒にいるであろうことが想像できるのは、何よりの幸せ。

 

「ある行旅死亡人の物語」武田 惇志, 伊藤 亜衣

はじまりは、たった数行の死亡記事だった。警察も探偵もたどり着けなかった真実へ――。「名もなき人」の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。(作品紹介より)
ある行旅死亡人の物語
たった一つの手がかりから身元を辿っていく記者の方々の根気強さ、労力を厭わない姿勢、ささいなつながりも見逃さない真実への探求心に、ただただ感服した。多くの謎は残されたままだが、あらゆる方面との関りを絶っていた女性は、望んで行旅死亡人になられたとも言える。引受人がわかる程度の幕引きで、逆によかったのかもしれない。

人はただ生きているだけでエピソードを紡いでいるんだ。それを語ってくれる人がいる大切さに思いを馳せると、涙が自然とこぼれてくる。まあ独居老人確定の私にはそんな人いないんだが。

 

「7月のダークライド」ルー・バーニー

ヒデミス2024エントリー作品。どれか一つを選ぶなら、エドワード・ファーロングの最強時代を彷彿とさせる表紙の今作しかない。ちなみにこの少年は主人公ではなく彼を妄信している16歳のサルヴァドール(たぶん)。
7月のダークライド (ハーパーBOOKS)
遊園地で働く青年ハードリーが、たまたま見かけた虐待の疑いのある幼い姉弟を救うため、探偵まがいの調査を開始する。ミステリとしては軽めで、どちらかというと冒険小説。

最初は、なぜ垢の他人にそこまで必死になるのか理解できなかった。でも、これは願掛けだったんだよね、ハーディ? 客にバカにされながら最低賃金で働き、ドラッグ漬けの仲間とつるみ、何事も中途半端に生きてきた自分が彼らを助けることができたなら自分も生きなおすことが必ずできると信じ、行動した。

人生の転換期って、いつくるかわからない。諦めを受容しようとしている人の背中を押して歩き出す手助けをしてくれるような、そんな物語だった。これはもっと売れていい良書。

 

「怪獣保護協会」ジョン・スコルジー

並行世界に生息している怪獣の生態系を守り、必要であれば手を貸していく協会員たちの活動を描いていた物語。
怪獣保護協会
挿絵が欲しい! 幸い日本には映画のみならず自衛隊が怪獣と闘ったり清掃員が怪獣化して8号になったりする文化があるのでそこからイメージを流用したが、怪獣の描写説明があまりに簡易で脳内の映像化が難しかった。登場人物の性別をあいまいにしていることから推し量るに、想像の翼の広げ方は読者にまかせるタイプの作家だとしても、うーん。エンターテイメント性が高くわくわくできる話だし、さっさとハリウッドで映像化してください。

 

「ミン・スーが犯した幾千もの罪」トム・リン(半分ほどでリタイア)

ミン・スーが犯した幾千もの罪 (集英社文庫)
西部開拓時代のワイルドな世界観に預言者とかテレパスといったスピリチュアル要素が加わっている、なんというか著者の好きなモノ全部詰め込みました小説。主人公の過去や米国を横断してまで復讐する動機の説明が弱く、半分近く読んでも物語に入ることができなかった。文体が三人称神視点であることも没頭できなかった理由の一つ。

 

マンガ

ダンジョン飯熱が再燃

アマプラで何気なく見始めたら止まらなくなった。紙媒体で半分ほど集めていたのだが、年末年始のカドカワセールを利用して電子で全巻買いなおした。だってちょうどいいところで1シーズンが終わっちゃったから。
ダンジョン飯 1巻 (HARTA COMIX)
死と隣り合わせの迷宮で、生きるために食べる。これまでのダンジョン探索にはなかった視点から生きることを見つめ、一切ブレることなく大団円へと導いた九井先生すばらしすぎます。私の住む町の図書館には「スケバン刑事」があるのに、この漫画がなぜないのだろう。一刻も早く食育コーナーに並べるべき。

アニメに該当する巻は昔読んでいたので、前半はぱーっと流してガーゴイルのあたりから本腰を入れる。前半同様、佳境に入ってからもユーモラスなやり取りを続けてくれたライオス一行に笑った笑った。もー使い魔と同期するマルシルがさ~笑 そして迷宮の深層にたどりつき、モンスターを調理して食べることがこんな結末につながるなんて。食べることは生きること、ダイエット挫折してばかりの母をはげますためにライオスのセリフを真似して早速使わせてもらっちゃった。

よく食べ、はげまし合い、救い合いながら、長らくの冒険お疲れさまだったね。九井先生、一生読み続けたいと思えるステキな物語に出会わせてくださりありがとうございました。

 

「彼岸島」が相変わらず面白い件

私がヤンマガを読み続ける理由である彼岸島。今月の展開もやばかった。

卑弥呼様とプリンセス様の壮絶な過去話と、兄貴が生きていた伏線の回収。要するに卑弥呼様は強くなるため宮本篤の骨を体内に取り込んだが、日が経つうちにもともと宿していた胎児に篤の魂が乗り移ってしまい、篤を出産することになってしまったって話。つまりベルセルクやないかい。

私の予想ではワキの下のあたりからぬるりと生まれるはずだったのだが、常に読者の度肝を抜くことしか考えていない鈴木先生がアマルガムの出産という一世一代の見せ場をそんな安産で済ますわけもなく、篤はエイリアンよろしく腹をぶち破っておぎゃあと現世に登場した。大事な部分だけは見えないように、どこかで見たことのあるポーズで泣きわめく篤。なぜ赤ん坊なのに篤とわかるのかって? それは、幼児ではなく大人の篤が出てきたからです。篤が篤の姿のまま全裸でおぎゃあと泣く、新たな命の誕生という感動的なシーンに立ち会っているはずなのに、拒否感がすごいんだが。

新年早々、彼岸島48日後に篤がオギャるという伝説が新たに生まれた。2月からバブみあふれる篤が見られるかと思うと、わくわくが止まらない。

戦士に愛を 49巻 50巻

ダービアを乗せた飛行機がミサイルで撃墜された。同じく搭乗しようとしていたクオウは乗り込む直前、機内に漂っていた黒いもやが気になり間一髪難を逃れる。ミサイルを発射したのは反乱軍だった。反乱に賛同しない者たちを選別したと冷静に語るオルカと、一触即発のスパーズ。スパーズが去ったあと、オルカに近寄るウィズは、オルカに力を貸すと言い、怪しく笑った。

次からは機構政府の街が戦場になる様子。そのあとで来たのよ、トゥルシュトが。16巻あたりでバルディオと死闘を繰り広げた反乱軍の彼よ。首だけから生き返った? 対機構政府で共闘になったら熱すぎるんだが!

50巻は機構政府の日常から始まった。ウィズの操る無人ドローンが住民を区別なく攻撃していく。子どもが巻き込まれたことに心を痛めるクオウだが、ウィズは何の感情も見せず不運だったと述べるだけだった。

人間が生み出した人造人は何回かバージョンダウンされて今の型式(?)になったようだが、人間に対する攻撃に何らかのリミッターを設けなかったのは失敗だったのではないだろうか。人造人は生み出せるのに、人間てバカなんだね。

BLはちょっとお腹いっぱい

ebookの購入履歴を見直して気づいた、今月1冊も買っていないことに。ここ数年で初めてかもしれない。